生きていくためのもとの力である食べ物、われわれはその多くを農業に依拠している。われわ
れの身体さらに言えば「いのち」そのものを支えるほどの重要な意味をもつ農業でありながら、
われわれの農業に対する理解は不足しており、また生産者と消費者の距離が以前にもまして広が
りつつある現状がある。
農業には様々な価値があるが、教育的価値も農業のもつ重要な価値のひとつであると思われる。
近年、食育への関心、関連して食の安全、食と健康にも関心が高まる中、「有機農業」にも関心が
寄せられている。農薬や化学肥料に頼らず農作物を生み出す土に着目し、土壌を肥沃にし地力を
高めながら農作物の生産を目指す有機農業は、土台作りの大切さという点で、とりわけ教育的価
値が認められよう。
&emspところで、農と教育に関し、神奈川県初の単位制高校として1995年に開校した県立神奈川総合
高校に注目したい。同校では研修旅行と名づけているいわゆる修学旅行のプログラムのひとつに
農業体験研修旅行がある。開校二年目の1996年に開始された山形県高畠町における農業体験研修
旅行は、参加した生徒、引率した教員から高い支持を得ながら現在まで継続実施されている。
&emsp山形県高畠町は、わが国における有機農業の先進地として知られ、40年来有機農業への取組が
行われている町である。近年では、2008年に「たかはた食と農のまちづくり条例」を制定するな
ど、有機農業を大切にしながら食と農を重視するまちづくりを推進している。同町を舞台として
行われている神奈川総合高校の農業体験研修旅行は、参加生徒にとって、「農や食」について学ぶ
のみならず、「いのちや環境」を考え、さらには、「自らの生き方を問い直し、新たな自分との出
会い」を体験する貴重な機会となっている。
&emsp筆者はこの農業体験研修旅行の企画及び実施に関わり、参加生徒が、農という営みをとおして
「食」や「環境」、さらには「いのち」や「豊かさ」について考え、人間的にも大きく成長する様
子を見てきた。以来、農と教育、さらには農と教育と食の根源的なつながりについて強い関心を
寄せてきた。
&emsp本稿では、神奈川総合高校の農業体験研修旅行を柱に据えながら、高畠町で取り組まれている
「耕す教育」、あるいは同町で早稲田大学の学生が取り組んでいる農村体験学習等にもふれつつ、
農と教育について、農のもつ教育的意義について考察していきたい。そして、その考察は、今後
の教育にさらには本学における「農医連携教育」にも示唆を与えることになるものと思われる。
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