北里大学一般教育紀要
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19 巻
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原著
  • 畠山 禎
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 1-29
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     19世紀後半のロシアにおける職業技術教育の規模的拡大は工業化や社会の「近代化」のための 人材を養成できたのか。職業技術教育という学歴の獲得によって社会的上昇機会が拡大したこと は社会階層の再編を加速させたのか。これらの問題に関わる重要なテーマが職業技術教育機関に おける「選抜」、すなわち卒業と退学である。本論では退学状況とその理由、卒業・退学と社会階 層との関係を考察した。  第一節では、И・А・アノーポフ編『ロシアにおける中・下級技術学校と手工業学校の現状を分 析するための資料の系統的概観の試み』(ペテルブルク、1898年)より退学にかんする情報を収集 することで、退学の規模を把握し、退学理由を明らかにした。職業技術教育の普及は初等教育修 了者に進学機会を与えたものの、職業技術教育機関においては多数の退学が発生していた。その 中には成績不良や準備不足から学業を放棄せざるを得なかった者がいた。その一方で、学校で最 低限の知識や技能を習得してから工場や手工業工房に就職した者もいた。彼らは自分たちの教育 戦略において卒業までの在学よりもできるだけ早い就職を重視していたのである。  第二節では、ロシア技術協会付属手工業学校の事例にもとづき入学者・卒業者の社会構成を比較した。出身身分、信教、親の職業、出身校の分析からは、総じて下層ほど退学の多い傾向が明 らかになった。同校生徒の大部分が下層出身者によって占められるようになった1900年代にかけ て、出身の異なる者の間で卒業率の差は縮まる。生徒の出身階層に限定すれば、学校での「選抜」 における社会階層の偏りは小さくなった。
  • 武田 晃二
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 31-42
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     1965年6月12日、東京教育大学教授家永三郎氏が執筆者として申請した高等学校教科書『新日 本史』用の原稿に対し、文部大臣が不合格あるいは条件付合格としたことから、家永氏は精神的 損害を被ったとして国家賠償を求め、10名の原告訴訟代理人名で東京地方裁判所に提訴した。こ の裁判は1993年の最高裁判決をもって終結したが、ここに至る一連の裁判がいわゆる第1次教科 書裁判と言われる。この裁判で東京地裁に提出されたのが小論で取り上げる「訴状」である。  この裁判での判決はいずれもが、教科書検定を合憲とするという点で「訴状」を退けたが、い わゆる「国民の教育権」を主張する側から「不当」であるとの見解がきびしく提起された。 「訴状」は主として憲法第21条を論拠に教科書検定制度の違憲性を組み立てたが、国側および判 決は憲法第26条を論拠として合憲性を展開した。しかし、双方の主張には、第26条2項の意義が 明確に認識されていなかったことについて共通の弱点があった。  今日の時点で、教科書裁判(第1次)を総括するとすれば、第26条2項の意義を憲法理念に照 らして深く解明し、それを論拠として、教科書検定制度の憲法上の位置づけを明確にすることで ある。
  • ―ある高校における農業体験研修旅行を中心に―
    川井 陽一
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 43-67
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     生きていくためのもとの力である食べ物、われわれはその多くを農業に依拠している。われわ れの身体さらに言えば「いのち」そのものを支えるほどの重要な意味をもつ農業でありながら、 われわれの農業に対する理解は不足しており、また生産者と消費者の距離が以前にもまして広が りつつある現状がある。
     農業には様々な価値があるが、教育的価値も農業のもつ重要な価値のひとつであると思われる。 近年、食育への関心、関連して食の安全、食と健康にも関心が高まる中、「有機農業」にも関心が 寄せられている。農薬や化学肥料に頼らず農作物を生み出す土に着目し、土壌を肥沃にし地力を 高めながら農作物の生産を目指す有機農業は、土台作りの大切さという点で、とりわけ教育的価 値が認められよう。
    &emspところで、農と教育に関し、神奈川県初の単位制高校として1995年に開校した県立神奈川総合 高校に注目したい。同校では研修旅行と名づけているいわゆる修学旅行のプログラムのひとつに 農業体験研修旅行がある。開校二年目の1996年に開始された山形県高畠町における農業体験研修 旅行は、参加した生徒、引率した教員から高い支持を得ながら現在まで継続実施されている。
    &emsp山形県高畠町は、わが国における有機農業の先進地として知られ、40年来有機農業への取組が 行われている町である。近年では、2008年に「たかはた食と農のまちづくり条例」を制定するな ど、有機農業を大切にしながら食と農を重視するまちづくりを推進している。同町を舞台として 行われている神奈川総合高校の農業体験研修旅行は、参加生徒にとって、「農や食」について学ぶ のみならず、「いのちや環境」を考え、さらには、「自らの生き方を問い直し、新たな自分との出 会い」を体験する貴重な機会となっている。
    &emsp筆者はこの農業体験研修旅行の企画及び実施に関わり、参加生徒が、農という営みをとおして 「食」や「環境」、さらには「いのち」や「豊かさ」について考え、人間的にも大きく成長する様 子を見てきた。以来、農と教育、さらには農と教育と食の根源的なつながりについて強い関心を 寄せてきた。
    &emsp本稿では、神奈川総合高校の農業体験研修旅行を柱に据えながら、高畠町で取り組まれている 「耕す教育」、あるいは同町で早稲田大学の学生が取り組んでいる農村体験学習等にもふれつつ、 農と教育について、農のもつ教育的意義について考察していきたい。そして、その考察は、今後 の教育にさらには本学における「農医連携教育」にも示唆を与えることになるものと思われる。
  • 日本との比較を中心とした分析
    平井 清子
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 69-99
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     台湾は英語が外国語として教えられる社会的背景が日本と似ており、6-3-3(5)制の学校教 育制度も日本と同様である。しかしながら、英語教育ではすでに1990年代には小学校に公式 に英語教育が導入され始め、現在は小学校から高校までの一貫カリキュラムを実施している。 近年、アジア諸国の英語教育が注目されているが、隣国台湾で2005年から開始された小学校 から大学までの英語教育改革を検討していく価値は大きい。本研究では、台湾の高等学校で 使用されている英語の教科書で扱われている題材を分析した。これを日本のものと比較する ことにより、その特徴を捉え、日本の英語教育に示唆するものを明らかにすることが目的で ある。
     調査の対象とした教科書は、台湾で最も多く使用されている教科書会社3社のもので、合 計18冊(一学年2冊使用)である。それらの教科書で扱われている題材内容を日本十進分類 法(NDC)に基づいて分類し、その結果を分析・検討した。その特徴としては、1)「言語」 としての英語が多く取り扱われ、実用的な英語の題材が、「読む」「書く」「話す」「聴く」の 4技能の観点から取り上げられており、とりわけ、「自分の意見を書く」指導を重視している こと 2)古典や現代の文学作品を多く取り上げ、中でも「詩」を重視し、人間性の教育を 重んじていること、が挙げられる。題材内容については、日本に比べ文学作品が多く取り扱 われている(台湾19%:日本3%)。この傾向は、新学習指導要領に則った改訂後の教科書に ついてもその傾向が変わらないことが明らかとなった。文学作品を取り扱うことは、英語で ものを考え、論理的思考に働きかける教材として、欧米では言語教育において広く使用され ており、これからの日本の英語教育でもその可能性が大いに検討される価値のあるものであ ろう。
  • 市山 陽子
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 101-112
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     正書法処理能力と音韻処理能力を測定するテスト項目を作成し項目バンクを構築することは、 それぞれのカリキュラムや教授方法にあったテスト項目を選ばなければなら教員にとって役立つ と考えられる。日本語における外来語の増加及び英文を読む際に外来語の発音に苦労する日本人 学習者の数の増加という事態において、英語の教科書に含まれる外来語の数と種類を特定するこ とは必須である。この小規模な予備的研究では、一つの高等教育機関で使用されている英語の教 科書にある外来語の数と種類を調べることとした。分析の結果、この高等教育機関で使用されて いる英語の教科書に含まれる外来語の割合は、日本で発行される読み物の平均よりも多いことが 分かった。また、多くの外来語の発音が元の英単語の発音とは異なっていることが分かった。
  • ―「教育実習」に関する政策動向と実践的課題―
    荒尾 貞一, 千葉 昌弘
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 113-134
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     筆者たちは、第2次世界大戦後の大学における教員養成の原理と方法の歴史的変遷と北里大学 における実際の展開について2011年以来検討してきた。その第3報である本論文は教育実習の歴 史的成立過程について検討した。
     今日、文部科学省は教員養成の力点を教師の実践的指導力向上に置いている。この目的を達成 するために、教育実習の取得単位数を増やしたが、その一部を事前・事後指導で置き換えること を認めた。
     2008年から2011年まで、十和田市にキャンパスがある北里大学獣医学部は、事前指導のゲスト 講師として現職の中・高教員を招聘してきた。2009年以来、筆者たちは、その講義に対する学生 の要望を事前に集め、講義後には感想を集めて、ゲスト講師に送った。ゲスト講師は、要望に基 づいて講義を構成した。
     学生の講義要望事項や感想の特徴とゲスト講師による事前指導の効果を検討するために、テキ ストマイニングを用いて、要望事項と感想を分析した。クラスタ分析と対応分析の結果が検討さ れた。それによれば、学生たちには、中・高校生たちとの人間関係や授業計画の作成とその実施 に心配事や不安があり、ゲスト講師による事前指導がその心配事や不安を和らげるのに効果的だ ということが分かった。
  • 板橋 クリストファーマリオ
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 135-150
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     大学のスポーツ科目においてテニスを受講した学生を対象にアンケート調査を行い、受講者の 実態を把握するとともに、より良い授業を行うための一助となるよう本研究を行った。 結果について、授業に求めることは「楽しさ」「技術の向上」であった。授業内容の好き嫌いで は、どの内容についても「嫌い」を挙げた者は少なかったが、「基本練習」では「好き」を挙げた 者が少なかった。テニスの楽しさでは、「上手く打てたとき」「ラリーがたくさんつながったとき」 「仲間と盛り上がったとき」を挙げた者が多かった。各ショットの好き嫌いでは「バックハンドス トローク」「バックボレー」で「嫌い」を挙げた者が多く、その理由で最も多かったのは「上手く できないから」であった。
     以上の結果から、テニスの授業では楽しさのみではなく技術の向上も果たせることが求められ ており、特にその傾向はテニス経験者に強く、教員には技術指導力の高さが必要とされている。 また、「バックハンドストローク」「バックボレー」に苦手意識を持っている受講者が多いことか ら、これらの練習を増やすことや技術向上に効果的な指導法を取り入れる必要がある。授業内容 では受講者の技術レベル如何に関わらず基本練習一辺倒では無く、実戦練習を積極的に取り入れ ることが望まれている。受講者の満足度が高い授業行うことでテニスに対する良い印象が残り、 生涯スポーツとして継続する者が増えることが考えられる。
  • ―その効果の検証―
    廣岡 秀明
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 151-160
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     近年、高校物理を履修せずに入学してくる学生が増加している。この理科離れ現象が進む中で、 さらに学習内容が削減されたゆとり教育世代の学生に対応するため、平成20年度より、薬学部の 学生を対象に習熟度別クラス編成を実施してきた。本稿では、この5年間の教育効果について検 証し、報告する。
  • ―北里大学一般教育部を例に―
    石多 正男
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 p. 161-177
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2017/07/28
    研究報告書・技術報告書 フリー
     1991(平成3)年の大学設置基準の大綱化以後、教養教育についてさまざまな議論がなされて きた。しかし、それをさらに進めて大綱化が大学の学生指導に与えた影響を考察した報告は少な い。この論文は北里大学の教養部(現一般教育部)を例に、学生指導の問題を大綱化によるさま ざまな影響と関連づけて考察したものである。大綱化によって教養教育が変質したことは言うま でもない。同時にこれを担っていた教養部は改組され、教員の職位構成にも変化が生じた。この 変化を歴史を追って概観するなら、1980年から今日まで3つの時期に分けることができる。Ⅰ. 教 養部時代(1994年まで)、Ⅱ. 過渡期(1995~2002年)、Ⅲ. 一般教育部時代(2003年~)である。 この変化と並行して、漸次ではあるが、教員の教育・研究以外の諸業務、特に委員会活動が著し く増加し、また教員評価や任期制の導入、認証評価受信の義務化などが始まった。これらによっ て教員にはさまざまなプレッシャーが与えられるようになった。教員は学生指導にかかわる業務 の重要性を認識しながらも、1980年から今日にいたるまで、次第に学生指導以外の業務に従事す る時間が増え、また大学教員の特性ゆえに研究に重きを置かざるをえなくなった。結果的に、学 生指導に費やす時間と労力、そして熱意を削らざるをえなくなった。
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