日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
選択された号の論文の151件中151~151を表示しています
  • 中村 智樹, 岡崎 隆司, 長尾 敬介
    セッションID: k10-06
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/03/10
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    我々は小惑星帯の中心から外縁部に位置するCおよびD型小惑星の形成進化過程を、それらの小惑星から飛来したとされる始原隕石の物質科学的特性に基づき研究している。これらの小惑星はその内側の小惑星よりも太陽からの距離が遠かったため形成領域が極低温で、そのため水の氷が凝縮し岩石と共に微小天体を形成した。太陽系の元素存在度から推定すると、この水を含む小天体の水/岩石比は最大4であり、大量の水を含んでいたことになる。実際、CおよびD型小惑星から飛来する始原隕石の多くは大量の含水鉱物を含んでおり、このことは天体全域に水の影響があったことを示唆する。これらの小惑星より太陽から離れた領域にある木星、土星などの惑星の前身は水を含む微小天体であったと推定される。したがって、水を含む小惑星の形成進化過程の解明は、太陽系の形成を知る上で極めて重要である。レーザー抽出法により始原隕石に対し局所希ガス同位体比分析を行い、微小天体の形成過程を推定した。主に含水鉱物からなる始原隕石薄片に50ミクロン径のYAGレーザーを照射し、そこから放出される希ガス同位体比を測定した1)。その結果、希ガス原始成分の存在度から、(1)原始太陽系星雲の高温領域で一度溶融した球形物質コンドリュールの希ガス存在度は非常に低いこと、(2)超新星爆発で合成されたと考えられる特異な同位体比のXeを含むダイヤモンド粒子はコンドリュールを取り囲むリム物質に高い存在度を示すことなどが判明した。また、希ガス太陽風成分の存在度から、(3)リム物質をまとったコンドリュールどうしが付着成長し微小天体を形成したが、その形成領域は星雲ガスや塵で太陽風が遮断されていたこと、(4)微小天体成長の過程で星雲ガスが消滅し、その後は太陽風が降り注ぐ領域で微小天体成長が終結したこと、(5)星雲ガスが消滅した後も氷が溶けて出来た水と岩石の間の水質変成は続いていたこと、などが明らかになった。水を含む微小天体では、その物質科学的性質が天体内部での水質変成によって大きく変化する。水質変成は微小天体内部での最初の物質進化である。無水珪酸塩鉱物は含水珪酸塩鉱物に変化し、水溶液からは炭酸塩鉱物が沈殿する2)。始原隕石であるさやま炭素質コンドライトに対する二次イオン質量分析計を用いた局所酸素同位体分析により、(1)水質変質で生じた含水珪酸塩鉱物と炭酸塩鉱物は同位体分別を示すこと、(2)その分別の大きさから水質変成の温度が130℃以上であったこと、(3)水/岩石比がほぼ1であったこと、(4)水溶液の温度から計算される水蒸気圧と天体内部圧力のバランスから、この隕石が水質変成を受けた際、微小天体は直径15Km以上の大きさであったことが判明した。また、水質変成が終了した後に、水を含む一部の天体はさらに昇温し、脱水および脱ガス現象を起こしていることもわかった。多数の脱水した始原隕石の希ガス同位体の段階加熱分析により、(1)天体での加熱により最大90%程度の希ガスが放出されたこと、(2)放出時の温度は最大800℃程度であったこと、(3)長寿命放射性同位元素である40Arが加熱により減少していることから、加熱が起こったのは太陽系形成時ではなく、その後の天体上での衝突などのプロセスであったこと、などが判明した。参考文献1)Nakamura T. et al., Geochim. Cosmochim. Acta 63(1999), 257-273.2)Nakamura T. et al., Earth and Planetary Science Letters 207(2003), 83-101.
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