Harmonic imaging (HI) は, tissue harmonic imagingとして実質画像の空間分解能を上げるだけでなく, 超音波造影剤を用いて血管画像, ひいては実質臓器の微小血流の評価にまで応用されつつある.すなわちneurosonologyの領域では, emission CTやXe CTなどのいわゆる脳循環測定法としての意義が見込まれる.そこで, 最近発表されたこれに関する研究を紹介する.
【背景と目的】超音波造影剤静注後のgray-scaleHIは, 脳血流が毛細管レベルに至る脳灌流状態を画像化する初あての手法である.本研究は, 経頭蓋超音波法により脳の異なった部位の造影剤による一過性の増強効果を, second harmonic imaging (SHI) を用いて評価することを目的とした.
【対象と方法】脳血管障害のない各種神経疾患の患者18例 (22-56, 平均39歳) に対し, 6.5mlのガラクトースを基材としたmicrobubbleの混濁液 (Levovist, Schering AG) 400mg/mlを用いて, 両側の側頭窓から評価した.SONOS5500 (HP) の2.5MHzセクタ探触子で, frame rateは4心拍毎, 1.8MHz送信で3.6MHz受信のSHIとして画像化された.脳局所の増強効果を, まず視覚的に評価し, オフラインでtime-intensity curveを用いて定量的に評価した.脳の関心領域 (ROI) は, 視床の後部 (a) と前部 (b) , レンズ核 (c) , 大脳白質 (d) におき, 増強効果のpeak intensity, time-intensity curve下の面積 (AUC) , peak intensityまでの時間, ROIcとa, dとa, cとb, dとbの比を算出した.
【結果】全例で, 脳実質の増強効果が視認された.144のROI中131で, 増強効果を示す特徴的なtime-intensity curve (baseline phase, peak intensity, slow washout phase) が描出可能であった.とくにROIcとROIdで, 特徴的なtime-intensity curveが得られる頻度が最も高く (68/72) , ROIaとROIbでは増強不良で72検査のうち9回のみであった.peak intensityに至るまでの時間は, 20-52心拍と変動があり, 1例では88心拍であった.全例におけるAUCsと18例中16例のROIcとROIdにおけるpeak intensityは, ROIaとROIbと比較し2-10倍増強された.AUC比が2以上の左右差を示すROIはみられなかった.
【結論】SHIにより脳実質の異なった部位において, 超音波造影剤による増強効果を本研究では初あて描出し, 脳実質の血液灌流に関連した超音波診断法を導入した.しかし, 側頭骨の厚さの違いや超音波造影剤の濃度と描出される測定強度との関連は複雑で, 定量的評価としての増強効果の絶対値はバラツキがみられた.脳実質の増強効果の比較に, 異なった関心領域における増強効果の比が有用であった.SHIを用いた増強効果の減衰は測定深度に依存するため, HIによる脳灌流測定はpositron emission tomographyなど他の画像診断法と直接比較することはできない.
結局本研究では, 脳循環測定法として定量的な信頼性を確立することが出来ず, 定性的な意義しか見いだすことは出来なかった.しかし著者らも述べているように, 実時間性を生かしたdigital subtraction法の併用など今後の技術の改善により, 超音波を用いた局所脳循環測定法としての確立が切望されるところである.
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