本調査研究は、事業主が採用後に発達障害であることを把握し、就労継続のために職場適応上の課題解決に取り組んだ事例を通して、発達障害であることが把握された従業員を雇用する事業主に対してどのような支援が必要であるかを明らかにすることを目的とした。
調査の結果、職業生活上の主な問題は、障害特性に起因する職務遂行やコミュニケーションに関するものであり、「業務指示方法の見直し」、「本人が遂行可能な職務の創出」、「職場のルールや迷惑に感じていることを説明し、望ましい対応を伝えた」ことにより問題を解消した企業では、継続雇用できている従業員が多かった。また、多くの企業では職務内容の大幅な変更は行わず、職務の幅を限定することで対処している傾向が認められた。発達障害の診断・開示に至るプロセスにおいては、発達障害に関する知識を有する上司や人事担当者、産業医などの産業保健スタッフが介在することや良き理解者が存在することが、診断や開示に好影響を及ぼしていることがうかがえた。
見逃されてきた特性と環境との相互作用によって課題が顕在化し採用後に発達障害が把握される従業員を理解することが支援の第一歩であり、当該従業員に寄り添い、根気強く、諦めずに、時間をかけて、丁寧に、信頼関係を築いて支援や配慮が行える人材(上司・同僚)を育成することと併せて、望ましい支援や配慮のあり方を巡る議論が深化していくことが期待される。
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