自然保護助成基金助成成果報告書
Online ISSN : 2189-7727
Print ISSN : 2432-0943
31 巻
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
はじめに
目次
第29期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
  • 高橋 そよ, 渡久地 健, 呉屋 義勝, 堀 信行, 麓 才良, 竹 盛窪, 池田 佳
    原稿種別: 第29期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2022 年 31 巻 p. 1-10
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,サンゴ礁と地域住民の暮らしのつながりに関する人文・社会科学的な調査・研究を目的として,鹿児島県与論島にて地域の方と共に漁撈文化の資料収集と記録,対話の場づくりに取り組んだ.具体的には, NPO法人・郷土史研究会・教育委員会・漁業者・農家などの地域の人びととともに「ゆんぬピシバナ調査隊」を結成し,1)漁撈とかかわりの深い村落祭祀の歴史的資料の収集,2)サンゴ礁地形を利用する漁撈活動とそれを支える伝統的生態学的知識(Traditional Ecological Knowledge, TEK)の記録と参与観察,3)サンゴ礁と共に生きてきた歴史文化を再考する対話の場づくりをおこなった.

  • 中野 義勝, 磯村 尚子
    原稿種別: 第29期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2022 年 31 巻 p. 11-19
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    世界のサンゴ礁は度重なるサンゴの白化被害により疲弊が著しく,日本においても例外ではない.被害はサンゴ群集で優占するミドリイシ類に集中し,地理的には琉球列島の南琉球でその被害が顕著で,日本のサンゴ礁の多くを占める裾礁の地形区分では礁池及び礁斜面上部のサンゴ群集に被害が顕著である.

    本研究では気候変動に伴い今後被害の拡大が予想される中琉球の裾礁に焦点を当て,衛星画像とドローン撮影による礁池のサンゴ群集の調査と地元ダイビングショップなどの聞き取りから礁斜面や湾内などで白化被害を免れて生存する大規模群落・群体の現地調査を行った.礁池の調査ではミドリイシ類の大規模群落は見出すことができないが,ユビエダハマサンゴやコモンサンゴ類で規模の大きな群落が見出された.これらは白化耐性の強い種であることから,すでに多くを失ったミドリイシ類に代わって今後も礁池内の生物群集の骨格として重要である.また,特定の地域において礁斜面でミドリイシ類の大群落が確認され,礁斜面上部でもハナヤサイサンゴ類で大群落が見られるなど,一定の環境下で白化を免れたサンゴ群集の生存が確認された.

    今後はこれらの特定地域から得られたサンゴ種のサンプルから生物学的検討を進めるとともに,その環境特性を検討し,状況に応じた適応的な保護の提言を行う.

第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 石塚 譲, 山本 義彦, 幸田 良介, 近藤 美麻, 原口 岳
    原稿種別: 第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 20-29
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    特定外来生物ヌートリアの侵入に伴うリスクとして従来は,在来水生植物への食害や農業被害などが挙げられてきた.それらに加えてヌートリアが二枚貝を捕食した事例が報告され,当該生物がもたらす未知の生態リスクが憂慮されている.そこで,摂食内容に占める餌種ごとの割合(寄与率)の推定手法である炭素窒素安定同位体ミキシングモデルをヌートリアに適用することにより,餌に占める二枚貝の割合を解明する手法の確立を目的として本研究を実施した.飼育されている大型げっ歯類からの試料採取によってヌートリアによる餌の代謝過程における同位体富化係数を算出し,この係数を淀川河川敷で捕獲されたヌートリアに適用してミキシングモデルを構築し,試験的に二枚貝の寄与率を推定した.複数通り作成したいずれのモデルにおいても餌に占める二枚貝の推定割合は少なく,捕獲されたヌートリアにとって二枚貝は主要な餌ではないと考えられた.

  • 細石 真吾, 村上 貴弘, 緒方 一夫, 北島 寿子
    原稿種別: 第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 30-39
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年の物流発展によって本来の分布域を超えて生物が移動する外来種問題が起こっている.その中でも船舶を介したと思われる外来種の侵入未遂例は多く,九州北部においては特定外来生物のヒアリなどが博多港から確認されている.博多港は周辺離島への発着点となっており,壱岐や対馬,五島へフェリーを介して人や物の移動が頻繁に起こっている.本研究では,外来アリの内陸部における分布状況と在来アリ群集に及ぼす影響を明らかにした.九州北部の主要な10箇所の港において,港湾地域から内陸部の各地点でアリ類の調査を行ない,小規模な 6箇所の港では港湾地域のみで調査を行なった.ツナと蜂蜜を用いたベイトトラップによって,各地点で優占的なアリ種を明らかにした.現在までのところ,27種66,865個体のアリがベイトトラップ調査によって確認された.外来アリであるインドオオズアリは出現頻度では3番目に多く,個体数では 2番目に多いことから,港湾地域周辺において優占的なアリとなっていることが示唆された.一方,内陸部においては,周囲に田畑や森などが近接する地域では外来アリは少なくなり,在来アリの方が出現頻度も個体数も増加する傾向が見られた.

  • 水谷 晃, 山本 誉士, 河野 裕美
    原稿種別: 第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 40-47
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    カンムリワシSpilornis cheela perplexusは,八重山諸島の西表島と石垣島に生息する固有亜種で,食物連鎖の頂点捕食者である.本研究ではGPSロガーを用いて,カンムリワシの繁殖期の行動圏や利用環境を明らかにした.2021年6月に雄2羽にGPSロガーを装着し,それぞれ14日間(5604地点)と12日間(4189地点)の位置データを取得した.最外郭法による行動圏はそれぞれ48.7haと71.9haであった.日中の行動圏に含まれる環境要素は,カーネル密度95%行動圏では広葉樹林が約60%を占めて最も高かったが,50%行動圏や25%行動圏では水田もしくは集落地の占める割合が高く,二次的な湿地・草地が彼らの採餌場として機能していることが示唆された.また,森林内において,日中の位置データが集中する場所を調べたところ,下草や横枝が少なく,対照区に比べて開けた空間であった.

第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成
第30期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 江指 万里, 熊谷 隼, George Cassondra G., 宮城 国太郎, 髙木 昌興
    原稿種別: 第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 69-73
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    亜種リュウキュウオオコノハズクOtus lempiji pryeriの繁殖が確認されている沖縄島と屋我地島における生息実態と行動圏の面積,環境特性を解明した.調査は,2021年2月から8月に行った.約1km四方のメッシュを単位とし,森林からなる北部31メッシュ,都市からなる南部52メッシュ,森林域と都市の移行帯にあたる中部58メッシュで鳴き声の聞き取りを行った.北部の22メッシュ,南部の10メッシュ,中部の24メッシュで鳴き声を確認した.南部での生息確認は重要であり,都市域における生育を可能にする要因を詳細に解明することが課題である.育雛期にあたる5月上旬から6月中旬に,GPSデータロガーを用い,一晩の行動圏を解明した.平均行動圏面積はオス4.07ha(n=5),メス1.7ha(n=2)であった.樹木が疎な森林で採餌をしていると推察された.森林構造や土地利用と餌の利用可能性の関係を解明することで,リュウキュウオオコノハズクの採餌に適した環境を解明することも課題である.

  • 南 正人, 竹下 毅, 長崎 亜湖, 大塚 里沙, 須田 千鶴, 近清 弘晃, 井上 孝大, 岸元 良輔
    原稿種別: 第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 74-83
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ニホンジカ(Cervus nippon)捕獲用のくくりわなでニホンカモシカ(Capricornis crispus)が錯誤捕獲されており,その影響を調べた.長野県小諸市は2016年から錯誤捕獲されたカモシカに耳標を装着して記録している.千曲川南側の丘陵地に2017年から500m四方に1台合計22台のセンサーカメラを設置し,耳標のついたカモシカの生存と負傷状態を確認した.調査地内の生息個体をすべて撮影するために,2021年にはセンサーカメラを4倍にする期間を設けた.2021年に撮影された映像から錯誤捕獲された個体は調査地内の個体の約50%と推定され,負傷の有無を確認した個体のうち約50%が負傷していたことから,調査内の個体の約25%が負傷していると推定された.また,錯誤捕獲された個体では,負傷した個体の生存率は負傷していない個体よりも低い傾向にあった.

  • 北出 智美, 若尾 慶子, Drinkwater Eleanor, Outhwaite Willow
    原稿種別: 第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 84-95
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,両生類の最大の輸入国である米国と日本におけるワシントン条約非掲載種の取引状況を調査し,ペット取引によって存続が脅かされている可能性の高い種・分類群を特定した.米国の輸入記録では267種の非掲載種が特定され,輸入個体数の29%が野生由来,10%が個体数の減少している種であることが明らかになった.日本については,両生類の輸入が近年増加傾向にある中,市場調査で確認された230種(および25亜種)のうち81%が非掲載種,およそ4分の1が保全上の懸念があること(CR/EN/VU/NT)が分かり,亜種も含めた総種数のうち27%の種で野生捕獲個体の表示が見つかった.日本原産の両生類は,39種・亜種で国内販売が確認され,野生捕獲が一般的であることが示されたほか,海外市場でも保全上の懸念のある種が数種特定された.本研究でリスクが特定された種・分類群については,ワシントン条約規制をはじめ,原産国での法的保護や個体群のモニタリングを含む保全策の検討が急務である.

  • 森 貴久, 手嶋 洋子, 田尻 浩伸, 山本 誉士, 古口 大雅
    原稿種別: 31st Pro Natura Fund Domestic Research
    2022 年 31 巻 p. 96-101
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    カンムリウミスズメは日本近海にのみ生息する海鳥で国の天然記念物で絶滅危惧II類に指定されている.神子元島は本種の貴重な繁殖地だが,この周辺海域では洋上風力発電の建設計画が発表されている.本研究では洋上風力発電の建設が本種の繁殖に与える影響を評価する目的で,5個体のカンムリウミスズメにGPSロガーを装着し,5個体から20-50時間の位置記録,うち4個体から41-107回の潜水記録を得た.ロガー装着個体は島の西側の水深20m以浅の海域を主に利用していた.利用海域のコアエリアの面積は3.2-77.5km2(平均35.93km2)だった.潜水は日中に行われ,平均潜水深度は3.0-4.0m,平均潜水時間は8.2-11.2秒だった.これまでの調査結果と合わせると,本種の利用海域は洋上風力発電建設予定地の南東部分と大きく重複しており,浅い水深に分布する餌生物を日中採餌している本種は,建設場所によっては大きな影響を受けると考えられた.

  • 浅利 裕伸, 鈴木 真理子, 辻 維周
    原稿種別: 第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2022 年 31 巻 p. 102-108
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    効果的なロードキル対策を講じるためには,対象種とその生態的特性を考慮する必要がある.世界自然遺産登録地である奄美大島では,多くの希少両生類種が生息しているが,ロードキルの現状は明らかになっていない.そのため,島内の3地域に調査ルートを設定し,2020年10月~2021年9月にドライブセンサスを実施した.ロードキルは10種183個体が確認され,シリケンイモリのロードキル数がもっとも多かった.シリケンイモリのロードキルは11月~1月が多く,リュウキュウカジカガエルは5月に集中したロードキルの発生がみられた.一方,アマミハナサキガエルのロードキルの季節変動は小さく,通年発生する傾向があった.ロードキルの発生種と発生数は調査ルートによって違いがみられ,種の分布や生息個体数,交通量などによる影響が考えられた.シリケンイモリのロードキル発生は,森林面積などの土地利用面積や水域までの距離などと関係する可能性があったが,今後の詳細な解析が必要であると思われた.

第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成
第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成 地域NPO枠
第31期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
  • 鈴木 真理子, 宋 多情, 浅利 裕伸, 大海 昌平
    原稿種別: 31st Pro Natura Fund Specified Program
    2022 年 31 巻 p. 145-153
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    奄美大島・徳之島・沖縄本島・西表島が世界自然遺産登録の動きにより観光地として注目を集める中,奄美大島では,増加するナイトツアーによるアマミノクロウサギなどの野生動物への影響の懸念や利用者間のトラブルが発生している.特に利用が集中している奄美市道三太郎線周辺では,島内外から過剰利用への対策が求められており,現在行政主導による利用調整が始まった.本研究では,現在の過剰利用がどの程度野生動物への影響を与えているのか,施行ルールがそれらの影響の軽減につながるかどうかを調べた.緊急事態宣言による観光客数の低迷が影響したが,年間を通したアマミノクロウサギの出没と両生類・爬虫類の交通事故発生における交通量の直接的な影響は見られなかった.また,地元住民とガイドがどのように利用調整の取組を受け取っているのかについて聞き取りを行ったところ,ガイドと住民の利用形態の違いや住民の関与の少なさが問題点として顕在化した.

第4期協力型助成 学協会助成
  • 矢後 勝也, 谷尾 崇, 平井 規央, 伊藤 勇人, 佐々木 公隆, 中村 康弘, 永幡 嘉之, 神宮 周作, 水落 渚, 関根 雅史, 伊 ...
    原稿種別: 4th Cooperative Grant: Academic Association Grant
    2022 年 31 巻 p. 154-171
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    主にシカ食害による植生破壊で最も絶滅が危惧されるチョウとなった「種の保存法」の国内希少野生動植物種・ツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)保全エリアでの保護増殖活動,b)農林業との連携活動,c)地域住民との連携活動,の3つの課題に取り組んだ.この事例を基に,「希少種保全─農林業─地域住民」の共存共栄における模範的役割を目指した.保護増殖活動では,防鹿柵の増設により保全エリアを改善した他,新たな保全エリアを設けて環境整備と食草植栽,放逐実験を実行し,一年を通じた食草利用について検証した.農林業との連携活動では,本種の好む環境を備えたホダ場を所持する椎茸農家との協働に成功した.地域住民との連携活動では,地元中学校・高校への標本寄贈と食草植栽体験を行い,将来的に本種の保全を担う人材を育成した.また,保全シンポジウムをハイフレックス形式で2回開催するとともに,第1回では一般市民向けの観察会・食草植栽体験を実施した.缶バッジやリーフレット,食草ポットも無料配布して本種の保全活動を広く周知した.

第5期協力型助成 学協会助成
  • 中島 敦司, 今西 純一, 入山 義久, 内田 泰三, 小野 幸菜, 橘 隆一, 田中 淳, 津田 その子, 中村 華子, 吉原 敬嗣
    原稿種別: 第5期協力型助成 学協会助成
    2022 年 31 巻 p. 172-183
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    熊本地震および豪雨による崩壊等の復旧緑化事業に取り組みつつ,ススキ等野草地(半自然草原として維持されている牧野)の構成種を主な対象として地域性種苗の活用,流通拡大を目指している.生態系に配慮した復旧事業の推進,地域性植物の活用には地域の生産力,社会全体における価値観の共有化も欠かせない.本プロジェクトに多様な主体と取り組み,生物や生態系の多様性の保持,伝統的な視点を大切にした持続的な地域管理,地産資材の活用による地域の活性化などを進めている.2020,2021年には阿蘇市波野地区で花暦の作成等による普及,草原の短草型化の試験,牧野における有望な緑化植物であるススキ,ヤマハギ,コマツナギ種子の採取などの現地活動を地域の方と協力して実施した.採取した種子の阿蘇地域における復旧事業への活用を推奨し,現地およびコンテナ実験による導入試験を実施した.また,地域性種苗の使用・流通の拡大に寄与すると考えられる情報を整理して発信した.

第6期協力型助成 国際NGO助成
  • 竹元 博之, 橋本 千絵, 古市 剛史
    原稿種別: 第6期協力型助成 国際NGO助成
    2022 年 31 巻 p. 184-192
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本プロジェクトでは,1)森林と野生動物の保護,2)地元住民を対象とした環境教育,3)エコツーリズムによる地元経済への貢献を3つの柱とした活動を推進することを目的とした.1)では,主として霊長類を対象とする生息状況のモニタリング調査と巡視員による伐採や密猟などの監視を行った.2)については,新型コロナの影響でながらく中断していたが,2022年2月から再開した.3)については,上記のモニタリング調査によって,National Forestry Authority(NFA)と United States Agency for International Development(USAID)が協力して進めようとしているツーリストロッジとキャノピーウォークの建設候補地を,ツーリストによる安定的な霊長類の観察可能性と霊長類の生息に及ぼす影響という面から検証することを目指した.モニタリング調査の結果,チンパンジー以外の霊長類はカリンズ森林全域にほぼ均等に分布していたが,チンパンジーは,現在NFAが観察ツアーを行っている地域の密度が高く,NFAとUSAIDが施設建設の第一候補地としている地域ではほとんど見られないことがわかった.また,森林内で調査員が人と出会う頻度の高い地域では,霊長類の遭遇頻度が低くなっていることも確かめられた.

第6期協力型助成 国際的プログラムに関する助成
  • 鳥飼 久裕, 水田 拓, 島 隆穂, 鈴木 真理子
    原稿種別: 第6期協力型助成 国際的プログラムに関する助成
    2022 年 31 巻 p. 193-201
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    研究報告書・技術報告書 フリー

    2021年7月,「奄美大島,徳之島,沖縄島北部及び西表島」が世界自然遺産に登録され,遺産価値である絶滅危惧種や固有種のモニタリングは重要な責務となった.NPO法人奄美野鳥の会では,奄美大島の固有種・絶滅危惧種であるオオトラツグミの市民参加型調査を1994年より毎年実施しているが,今後も継続していくためには調査の担い手の確保や省力化が大きな課題となっている.これに対処するため,本研究では市民参加型調査の継続実施を図るとともに,講演会開催による普及啓発を行い,さらに音声録音装置による効率のよい調査手法の検討を実施した.調査や講演会では,若い世代の参加も得てモニタリングの重要性をアピールした.録音装置による調査では,オオトラツグミの在・不在は確実に確認できたが,密度の把握には工夫が必要であることが示唆された.今後も普及啓発と調査手法の検討を続け,奄美大島の動物の総合的なモニタリング体制の構築を目指したい.

2020年度 緊急助成
feedback
Top