オーストラリア,クイーンズランド州北東部,東経146°15',南緯20°17'に位置するMount Leyshon金鉱床は,オーストラリア盾状地の外縁部において,石炭紀末期から二畳紀初期にかけて起きた一連の火成活動に関連して形成された鉱床である。
本地域は,カンブリアーオルドビス紀の堆積岩類(Seventy Mile Range Group)とデボン紀の花崗岩類(Mount Leyshon Granite)を基盤(Lolworth-Revenswood Block)とし,それらは石炭紀末期から二畳紀初期の直径約1.5kmの円形構造を有するMount Leyshon complexに貫かれている。鉱床は,その中に見られる貫入岩の活動に伴って形成された。より小規模の角礫岩(Mount Leyshon breccia)を主な母岩としている。隣接したもう一つの母岩である貫入岩の粗粒石英斑岩のRb-Srアイソクロン年代は283±19Maである。この値は,本鉱床産方鉛鉱の鉛同位体年代ならびに鉱化作用と密接に関連する変質鉱物である白雲母のK-Ar年代とほとんど同じである。さらに,本地域周辺の火成岩類の年代を考慮にいれると,このことは,石炭紀末期から二畳紀初期にかけて一連の火成活動が相次いで起こり,かつ,鉱床形成がそれに伴って比較的短期間に行われたことを意味する。
本鉱床に見られる主に鉱物共生及び産状から,その鉱化-変質作用のステージは大きく二つ(前期,後期)に分けられる。前期の鉱石は,最大3cm幅のveins及びveinletsとして主に粗粒石英斑岩,変堆積岩,角礫岩(Main Pipe breccia)中に産し,Mo(輝水鉛鉱)の濃集及び高塩濃度(40-52eq.wt% NaCl)と,高pH(カリ長石,黒雲母)の鉱液で特徴づけられ,一方,後期のものは,主にMount Leyshon brecciaのmatrixを交代したり,間隙を充填したり,鉱染または最大幅1.5mの鉱脈として産し,Cu-Pb-Zn-Bi-Au-Agの濃集,低塩濃度(3-17eq.wt% NaCl),低pH(白雲母,緑泥石,カオリナイト)の鉱液で特徴づけられる。
これら二つのステージに伴う石英中の流体包有物のデータから,両者の生成温度には顕著な差は認められず,300℃程度と見積もることができる。後期に引き続いて,より低温の鉱物が細脈を形成している。金(エレクトラム)は,溶解度のデータ等から,黄鉄鉱が安定な領域で,主にpHの低下に伴ってチオ錯体が不安定となり沈澱したものと考えられる。上述のRb-St年代を用いて,1)火成活動の最末期(post-ore)の粗面安山岩,2)鉱石鉱物と密接に伴う方解石,3)鉱化に関連したとみられる粗粒石英斑岩,4)基盤(pre-ore)の花崗岩及び,5)変堆積岩のSr-Rb同位体組成を求めた結果,それらはマントル物質と地殻物質とが混合して生じたとするmixing modelと調和的である。
抄録全体を表示