山下・大西(2002)をはじめとするマルクス派最適成長モデルは資本制経済の生成・発展・死滅を歴史的必然として数理的に示した有意義な研究である。しかし、マルクス派最適成長モデルの分析対象は資本制経済ばかりであり、それに先行する社会の研究もなされるべきと筆者は考える。
そのような問題関心の中、農業を主とする前資本制生産様式を「農業革命モデル」として表現した研究に大西(2012)の第5章がある。そこでは, 大西(2012)が基本的に依拠するマルクス派最適成長モデルを基に「農業革命モデル」が構築され, 奴隷制期と農奴制期などによって成り立つ農業を主とする社会の生成・発展・死滅を説明していることが大きな特徴となっている。
本稿ではマルクス派最適成長論に基づいた「農業革命モデル」で奴隷制や農奴制の段階区分を論じるモデルを構築することを試みる。このようにして再構築したモデルが、従来のマルクス派最適モデルと最も異なる点は、農業社会という観点から蓄積の対象を耕地として議論をおこなっていることである。換言すれば、資本制における資本に対して農業社会における耕地を対応させている。次に, このような再解釈の下で, 牛犁などの発達した生産手段の有無によって農業の発達段階を区別したモデルを構築し, 各時代における最適な一人あたり耕地蓄積を論じる。また, 本文で構築したモデルをもちいて、農業が粗放なものから集約的なものに移行がおこなわれる必要条件についても考察をおこなう。このとき、牛犂などの生産手段を生産する技術が乏しい場合、達成される耕地蓄積の値は牛犂を用いないほうが大きくなってしまうこと、すなわち、発達した農業が機能するには一定の生産技術が要求されることを明らかにする。
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