山口医学
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58 巻, 4 号
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総説
  • 池田 栄二
    原稿種別: 総説
    2009 年 58 巻 4 号 p. 137-142
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2009/10/26
    ジャーナル フリー
    我々ヒトの生命活動は,主として酸素をエネルギー源とした細胞の代謝により維持されている.そして,細胞・組織・生体は,周囲酸素濃度の低下に対し様々な反応を示す.それらの反応は,低酸素環境においても細胞・組織・生体が機能するための代償性反応機構とみなされるが,ヒトの疾患においては病態を悪化させる要因として働く場合が多い.酸素を末梢組織へ運ぶ通路である血管は,酸素濃度変化に対し敏感に反応し,様々な改築を示し種々の疾患の病態に深く関わることが知られている.我々は,網膜血管の改築が本態である糖尿病網膜症の病態について,基礎生物学的ならびに臨床病理学的側面から解析を行ってきた.糖尿病網膜症では,病変部局所の低酸素状態を誘因とした血管新生および網膜血管バリアー機能破綻が生じる.我々は,組織低酸素状態により誘発される血管新生が,vascular endothelial growth factor (VEGF) mRNAの安定化およびhypoxia-inducible factor 1 (HIF-1) pathwayの活性化を介したVEGF遺伝子の転写亢進に担われることを明らかにした.そして,臨床病理検体の解析を通じ,糖尿病網膜症の網膜血管新生病変形成には,低酸素状態にある病変部局所のグリア細胞に産生が誘導されるVEGF,特にアイソフォームVEFE165と,細胞外マトリックス分解酵素matrix metalloproteinase 2 (MMP-2) の活性化因子であるmembrane-type1 matrix metalloproteinase (MT1-MMP) が主役を演ずることが示唆された.一方,網膜血管バリアー機能の破綻については,血管内皮細胞間tight junctionの構成分子であるclaudin-5に焦点を当てた解析を行い,これまでに低酸素刺激によるclaudin-5発現変化が主因であることを示す知見を得ている.本稿では,これまでの我々の研究成果について,文献的考察をまじえて概説する.
原著
  • 福田 吉治, 原田 唯成
    原稿種別: 原著
    2009 年 58 巻 4 号 p. 143-148
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2009/10/26
    ジャーナル フリー
    【目的】医師不足が深刻化する中,地域における必要な医師数を把握することの意義は大きい.本研究では,山口県内の病院長を対象に各病院における診療科別医師の現在数ならびに必要数を調査することにより,山口県内の病院必要医師数算出の試みを行った.【方法】山口県内の全病院(山口大学医学部附属病院除く)の病院長を対象に,診療科別医師の現在数,必要医師数(現在数含む),必要の喫緊性を記入する調査票を送付し,回収した.これらを積算して全体の値を算出するとともに,不足数(必要数―現在数),不足率(不足数/必要数),喫緊不足率(喫緊不足数/不足数)の3つの指標を用いて,診療科別の不足状況を評価した.【結果】147の病院のうち,119から回答があった.全診療科では,現在数は1593名,必要数は2202名で,不足数は609名であった.総じて,どの診療科も医師は不足していたが,呼吸器科,神経内科,小児科,整形外科,産婦人科,麻酔科,救命救急科では,特に不足感が強かった.医療圏により不足感の強い診療科は異なっていた.【結論】本研究により,山口県の診療科別医師不足状況が定量化できた.この結果は,今後の診療科別の医師育成や適正配置を考えるうえで貴重な資料となりうる.
  • 福田 吉治, 原田 唯成
    原稿種別: 原著
    2009 年 58 巻 4 号 p. 149-154
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2009/10/26
    ジャーナル フリー
    【目的】医師の地域および診療科別偏在の解消のためには,必要と考えられる医師数を把握する必要がある.本研究は,山口県内病院の診療科長のオピニオンをもとに,各診療科・医療圏別の必要医師数ならびに山口県全体の専門医研修(後期研修)医に相当する必要医師数の調査を行った.【方法】山口県内全病院の病院長を通じて診療科長に調査用紙を配布し,その診療科における二次医療圏別必要医師数ならびに専門医研修医(後期研修医:前期研修終了後5-6年間の医師)に相当する医師数を調査した.調査は,デルファイ法に準じ,2回調査を行い,1回目の調査結果を2回目に配布した.【結果】ほとんど診療科で必要医師数が現在医師数を上回っており,特に不足感の強かった診療科は,呼吸器科,神経内科,形成外科,呼吸器外科,リハビリテーション科,麻酔科,救命救急科であった.合計としては,425名の不足があった(現在数2369,必要数2794).専門医研修(後期研修)医に相当する医師(1年あたり)の必要数は,内科20,外科12,精神科・神経科,小児科,整形外科,産婦人科,麻酔科,救命救急科各6,脳神経外科,眼科,耳鼻咽喉科,泌尿器科,放射線科各4,皮膚科,リハビリテーション科各3,形成外科2となった.【結論】結果は慎重に解釈し,さらに専門家間で議論する必要があるが,医師の地域および診療科別偏在を解消するためには,これらの数値を参考にしながら,山口県全体として,後期研修プログラムの充実を図るなどによって,診療科別地域別の必要数を充足することが必要である.
症例報告
  • 大江 晋司, 柳井 秀雄, 谷岡 ゆかり, 坂口 栄樹, 祐徳 浩紀, 村上 知之, 岡本 真理子
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 58 巻 4 号 p. 155-159
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2009/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は,80歳代男性.胃精査の過程で超音波内視鏡検査(Endoscopic ultrasonography, EUS)にて多発胃粘膜下異所腺(diffuse cystic malformation, DCM)を診断.経過観察中に早期胃癌を確認し,内視鏡的粘膜下層剥離術(Endscopic submucosal dissection, ESD)を施行した.DCMの診断にはEUSが有用であった.下床,側方を含めた十分な内視鏡的切除にはESDが有用であった.DCMは胃癌の並存病変として知られている.そのため,上部消化管内視鏡検査にて境界不明瞭な隆起を認めた場合には,EUSを積極的に行い,DCMが存在する場合には多発胃癌のハイリスクグループとしての経過観察が重要である.
  • 河岡 徹, 松井 洋人, 長島 淳, 平木 桜夫, 福田 進太郎
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 58 巻 4 号 p. 161-165
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2009/10/26
    ジャーナル フリー
    特発性大網捻転症は,明らかな器質的疾患を伴わずに大網の一部または全体が捻転する比較的まれな急性腹症である.臨床症状が典型的でないことから術前診断が困難とされていたが,腹部CTで特徴的な所見を呈するため,最近では術前に正診を得た報告も散見されている.今回,われわれは術前診断し,腹腔鏡下手術で根治し得た1例を経験したので報告する.症例は55歳,男性.主訴は移動する腹痛.来院時,心窩部に強い圧痛を認めた.腹部単純CTで,横行結腸の中央部腹側に渦巻き状構造を呈する腫瘤を認めたことから,特発性大網捻転症を疑い,腹腔鏡下手術を行った.腹腔内を観察したところ,赤黒く変色し硬化した大網を認めた.さらにその近位側で,反時計方向に約5回転,捻転している部分を確認したため,大網部分切除術を施行した.術後経過は良好で,術翌日から食事を開始,術後3日目に軽快退院した.特発性大網捻転症に対し腹腔鏡下手術で治療し得た症例は,本邦では自検例を含め,5例のみであった.急性腹症でCT検査により特徴的な渦巻き状構造を呈する腫瘤を認めた場合は,本症を疑う必要がある.さらに腹腔鏡下手術は診断の確定ならびに治療を低侵襲下に同時に行うことが出来るため,大変有用である.
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