本稿の目的は「点字=視覚障害者用の特殊な文字」という固定観念を打破することである.点字の特徴として以下の二つを挙げることができる. (1)「少ない材料から多くを生み出すしたたかな創造力」:わずか6個の点の組み合わせで日本語の仮名はもちろん,数字,アルファベット,さらには音符まで表せること. (2)「常識にとらわれないしなやかな発想力」:文字は線で表現するという晴眼者(マジョリティ)の論理にこだわらず,触覚による読み書きに適した文字として提案されたこと.点字に込められた創造力と発想力,そしてそれを社会に発信するエネルギーの総称が"点字力"である.本稿では視覚障害者文化の観点から"点字力"を理論化する.まず"点字力"を具体的に分析するための第一の課題は,視覚障害者の文字としての点字の歴史と役割を跡付けることである.その議論を基礎としつつ,本稿後半では触覚を利用したサインとして点字を再評価する.全体を通じて,幅広い視点から点字の新たな可能性に迫りたい.結論では,多文化共生社会をめざす21世紀の日本にとって"点字力"が持つ意味について言及する.
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