【目的】指定介護老人福祉施設(特別養護老人福祉施設。以下「特養」)は,要介護1から5の高齢者が入居し介護や訓練を受けて生活するところである。制度上は介護老人保健施設と並んで在宅復帰をめざす施設として位置付けられているが,特養で提供される機能訓練に理学療法士が必要とされるのかどうかという議論は今まであまりされてこなかった。本研究の目的は,特養において機能訓練の対象となる高齢者の特性を分析し,事例を通じて理学療法士が果たしうる役割を検討することである。
【方法】対象は新潟県北蒲原郡豊浦町にある特養「つきお
かの里
」(以下「施設」)入居者で,車椅子もしくは椅子に座って訓練に参加可能な21名(男5名,女16名。年齢82.4±7.5歳)とした。これまでに理学療法士の関わりはなかった。機能訓練は,週1回,1回につき3時間程度,理学療法士1名が施設の機能訓練指導員(看護師)とともに実施した。介入期間は平成15年4月から9月までの6ヶ月とした。方法は,準備体操,個別練習(起立・歩行練習など)で,対象者を2グループに分け2セッションで行った。必要に応じ,ベッド周囲で起居動作や車椅子座位保持について施設スタッフに指導した。9月末現在で,理学療法対象者(対象群)とその他の入所者(非対象群。62名。男10名,女52名。年齢85.7±8.0歳)の介護認定の等級を比較した。二群の間で年齢に有意な差はなかった。統計はマン・ホイットニ検定を用い,危険率5%で検定した。また,ADLの変化を事例ごとに検討した。
【結果】二群の間で,介護認定の等級に有意な差が認められた。中央値は対象群で要介護3,非対象群で要介護5であった。ADLの改善が見られた事例を以下に紹介する。脊髄疾患と脳血管障害などの後遺症で四肢麻痺と体幹機能障害のある要介護3の75歳の女性は,筋力増強練習や起立練習,ベッド上での起居動作練習などにより,車椅子上でプッシュアップにより姿勢が直せるようになり,ベッド上の移動も自立度を増すことができるようになった。その他の事例においても,運動機能が改善した者は多かった。一方で,全身状態の悪化により活動性が低下し,車椅子座位が困難となる者も少なからず見られた。
【考察】結果より,特養の機能訓練の対象となるかどうかの適応は,年齢に関係なく,介護度に影響されるところが大きいと考えられる。理学療法士は,個別プログラムを立案し運動機能の改善をADLに直結できるようにするため,要となる役割を果たせると考えられる。また,他職種との連携といった面でも,その役割は充分に掘り起こされていないと考えられる。特養が在宅復帰をめざす施設として真に位置付けられるためには,現行制度上の「機能訓練」の概念はリハビリテーションとして捉えなおされるべきであり,その議論のために理学療法士が実績を示していくことが重要であると考える。
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