アスベストを原因とする中皮腫は, ほとんど突然のように平成17年 (2005) にマスコミを賑わせた. しかし, 医学的あるいは環境衛生学的には, そのずっと以前から問題視されていたことは周知のことである.
戦前から戦中, そして戦後にかけてのアスベスト (石綿) の使用状況の変化が示すところによれば, わが国では高度経済成長期にきわめて有用な建築資材として多く使われたことが特徴的である. また, アメリカやイギリス, フランスなど諸外国での対応に比較してわが国の行政対応が遅れていたことが問題として指摘されている. こうした状況の中, 平成17年7月1日の『石綿障害予防規則』の施行直前に, 改めて社会的問題として大きく取り上げられたのである.
アスベストは建築物に多く使用され, 製造作業者のみならず工場周辺の住民, 建築現場の作業者, 建築物利用者 (居住者や学童など) 多くの人々が影響を受ける. そのために, 行政的には多くの省庁がかかわる問題となっている. また, 疾患としての中皮腫の自然史が明確になっていないこと, 潜伏期間が長いことなどは, 医学的にも対応が難しいことを示している.
さらに, わが国では1970, 80年代がアスベスト使用のピークであり, 今後10-20年後にさらに多くの中皮種の発症が予測されている. 以上のように, アスベストに起因する中皮腫は戦後における効率優先の経済開発によって生じた問題として位置づけることができる. 医学的問題の背後にある社会的, 歴史的背景を重視して問題を考えたい.
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