社会学年報
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特集 「東日本大震災と社会経済的不平等」
大震災とアスベスト
――「復興」に隠された被害の構図――
加藤 正文
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2015 年 44 巻 p. 25-38

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抄録

 アスベスト(石綿)は他に類を見ない有用性から産業革命以降,各国で大量使用されてきた.その用途は3千種類に及んだ.しかし,髪の毛の5千分の1の微細な石綿繊維は,吸引すると長い潜伏期間をへて中皮腫や石綿肺などの病気を引き起こす.生産・流通・消費・廃棄の経済活動の全局面で被害を起こす「複合型ストック災害」(大阪市大名誉教授・宮本憲一)とされる.

 微細な死の棘が一気に拡散されるのが,大震災のときだ.激しい揺れで倒壊した建物からは,建材などに内在していた石綿が周囲に飛散する.1995年の阪神・淡路大震災では大量の建物が倒壊し,粉じんが舞いあがった.20年あまりが過ぎ,がれき処理に携わった労働者の間で発症が相次いでいる.震災で家族や自宅,工場などを失い,さらに時をへて石綿の病気にかかってしまう.この不条理こそが震災アスベストの特徴である.この教訓は2011年の東日本大震災の被災地できちんと生かされているのだろうか.宮城県石巻市や仙台市などでは飛散対策の不備やマスクの装着の不徹底など飛散・吸引のリスクを各所で感じた.

 アスベスト被害は使われた範囲が広い分,被害の形もまた多様である.有害と知りつつも「管理して使えば安全」として十分な規制を怠る.その結果,大勢の市民が犠牲となり,いまも危険にさらされ続ける.その姿は,東京電力福島第一原発事故を引き起こし,迷走したままの原子力政策とも重なる.

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© 2015 東北社会学会
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