サハラ砂漠西端部に分布する砂丘列に含まれる孤立砂丘の形態をもとに,当該地域で砂丘形態に影響を与えている季節風の角度変化量・相対強度の推定を試み,既存の評価方法では決定することのできなかった,ふたつの流れの強度の差が大きい二方向の風からなる風況の存在を確認した.
モーリタニア西部の都市・Port-Étienne (現 Nouadhibou) での年間の風況が,Breed et al. (1979) に報告されている.Breed らは RDP/DP
* という指標を用いてその風況を評価し,一方向性が強い風況であることを示した.しかし,サハラ砂漠西部では,北大西洋に中心を持つ
アゾレス高気圧
及び夏季にサハラ砂漠上に発達するサハラ高気圧と,南方に位置する ITCZ との影響を受け,一般には北~北東の風と北東~東の風の二方向の風からなる季節風が存在するとされている.
筆者らの水路実験により,交互二方向流下で発達する孤立砂丘地形について,その形態から砂丘形成に影響を与えた二方向流の「角度変化量」及び「相対強度」を推定する方法が示された (谷口ら, 2008).角度変化量(θ)は流向変化時に起きる地形上のクレストラインの変化過程を支配するパラメータで,二方向流を繰り返し受けることで発達する地形の種類を決定する.二つの流れの強度比(α. 二次風のDP 値を一時風のDP値で割った値として定義)は,地形の種類には基本的に影響しない.角度変化量が75~90° の場合と180° の場合には,地形の分裂を伴う特殊な地形が,流れの強度比に依存して形成される.この解析方法には,従来用いられてきたRDP/DPを用いた相図(Wasson and Hyde, 1983) と比較して,『二方向流の条件を重複なく決定できる』 『ふたつの流れの強度が著しく異なる場合にも適用できる』などの利点がある.本研究では,この利点を活かし,従来の評価方法では判別が困難であった第2の流れの影響が小さい二方向流の影響を,砂丘形態から読み取ることを試みた.
モーリタニア西部・西サハラ南部の大西洋岸地域の衛星写真を用いた分析では,αの値は小さい(つまり,2次風の影響が相対的に小さい)が,北東~東寄りの2次風の影響が確認できる.たとえばPort-Étienne の北東120 km に位置する砂丘群では,θが60~90°,α が0.33以下の条件で見られる諸地形が観察された(右図).このことから,この地域においても二つの高気圧とITCZ の影響による二方向性の風況が示唆される.この地域の二次風のように,影響の小さい流れ成分は,通常の気象観測ではイレギュラーな風に紛れやすい.砂丘地形を用いた風況推定では,そうしたノイズの中から,実際に地形に影響を与えている(つまり,数十年というスケールで繰り返し作用し続けている)二つの風向を指摘することができる.
* DP (Drift potential, その方角からの風により年間に移動する砂の量に比例する) をもとにした流れの一方向性の指標.全方位のDP の和の絶対値を,全方位のDPの絶対値の和で除算した値.RDP/DP値が1に近いほど流れの一方向性が強い.
文献
谷口圭輔・遠藤徳孝・関口秀雄, 2008. 「角度変動量によって異なる二方向流下の孤立砂丘発達」,2008. 日本地理学会発表要旨集, 74, 125.
Breed, C. S., Fryberger, S. G., Andrews, S., McCauley, C., Lennartz, F., Gebel, D., Horstman, K., 1979. Regional studies of sand seas, using LANDSAT (ERTS) imagery. In: McKee, E. D. (Ed.), A study of Global Sand Seas. USGS Professional Paper 1052, pp. 305-397.
Wasson, R. J. and Hyde, R. 1983. Factors determining desert dune type. Nature 304 : 337-339
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