アリ類の多様性がきわめて高い熱帯林では、アリ類に擬態する生物の多様性も高いことが知られている。本研究では、ボルネオ島のランビルヒルズ国立公園をはじめ、東南アジア熱帯林で、多様性創出維持機構としてのアリ擬態の実態を解明するために、アリ擬態するハエトリグモ科
アリグモ
属の種多様性と同所に出現するアリ類多様性との関係や、画像解析技術を活用した
アリグモ
類の擬態マッチングの解析、安定同位体を用いた
アリグモ
類の食物連鎖解析、供餌実験等による
アリグモ
類の採食生態の調査などを行ってきた。その結果、同所に出現する
アリグモ
とアリ類の間で種多様性や擬態関係に密接な関係が見いだされることを明らかにすることができた。さらに、アリ擬態現象が
アリグモ
と非擬態クモ類との「すみわけ」や
アリグモ
種間の「喰い分け」のメカニズムとしても機能している可能性も分かってきた。これらのことは、熱帯でのアリ類の高い多様性がアリ擬態現象を介して、
アリグモ
類の多様性を創出する鋳型となり、さらに、その多様性を維持する多種共存機構や生態系安定化の機構となっていることを示唆している。
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