台北市における福徳平価住宅居住者の住戸空間と共用空間に対する意識と評価から, 平価住宅の住空間上の問題点を把握し, その空間の改善や整備を検討した結果は以下のようである.
(1) 平価住宅は低所得層を対象とした住宅であり, 平価住宅の居住者は, 本住宅への入居により, 経済的な不安と居住上の不安が緩和され, 居住者の平価住宅に対する満足度は高い.
(2) 居住者の住戸空間に対する改善行為から, 住戸空間に対する住要求をみると, 住戸内における防犯上の安全性や清潔と快適性にかかわる改善要求が強い.
(3) 聴き取りおよび観察調査を行った35例の住み方から, 居住者の収納様態をみると, 「備え付けベッドがある」住戸と, 「備え付けベッドがない」住戸ともに, 収納空間の不足が指摘できる.高齢者が居住する住宅の平面計画においては, 収納空間の確保が重要である.
(4) 緊急ベルの存在は居住者に安心感を与えている.緊急ベルの位置は, 居住者が普段よく活動する範囲内で, 触りやすい所に設置することが求められており, 現在の設置位置の改善が必要である.
(5) 転倒の事例からみると, 台所・浴室において転倒しやすい状況が存在している.その主な原因は, 入浴方法に伴う床の濡れであり, 転倒を防止するため, 台所と浴室の床材の仕様を滑りにくいものとすることが必要である.
(6) 共用生活空間については, 共用廊下に椅子を持ち出し, 近隣のコミュニケーションを取る場所となっており, 共用廊下の一部に交流スペースを計画することが示唆される.また, 共用階段は, 高齢居住者の身体状況にとって, 大きな負担である.今後, 平価住宅の高齢化はますます進行すると考えられ, 高齢居住者の安全性のため, エレベーターの外付けによる設置が重要な課題として指摘できる.
(7) 平価住宅の立地条件は, 高齢居住者にとって非常に便利な場所に立地しているため, 周辺の生活関連施設に対する満足度も高くなっている.今後, 高齢者住宅の立地場所として, 利便性の高いところに立地することが望ましいことが再確認された.
(8) 今後の改善方向として指摘してきた事柄は, 今後, 居住者の高齢化が進行することが予想される, 福徳平価住宅以外の4カ所の平価住宅 に対しても, その改善策として提言することができる.
抄録全体を表示