I はじめに
外来植物の生物学的侵入(biological invasion)はグローバルな環境問題の一つである(Vitousek et al. 1997).特に,太平洋島嶼では外来植物の生物学的侵入が顕著にみられ,外来植物の分布予測やその影響評価に関する研究が数多く行われてきた(Daehler et al. 2004など).
近年,外来植物の生物学的侵入が気候変化に影響をうけることが指摘されつつある(Dukes & Mooney 1999).特に,乾湿条件の変化は外来植物の侵入定着や分布拡大に有利に働くとされ(Davis et al. 2000),長期的な気候変化を考慮した外来植物への対策が急務となっている.
こうした背景から本研究では,1)気候条件の異なるいくつかの島嶼において,同一の外来植物の生物学的侵入による影響を明らかにし,2)それらの地理的な比較から,気候変動と外来植物の生物学的侵入との関連性を検討することを目的とした.本発表では,特に外来植物ギンネム(
Leucaena leucocephala)の生物学的侵入による影響の地理的な差異について明らかにする.
II 調査地と方法
本研究では調査対象地を,北西太平洋に位置し,乾湿条件が異なる琉球列島,小笠原諸島,ハワイ諸島とした.これら全ての島嶼では外来植物ギンネムによる生物学的侵入がみられ,その影響が危惧されている.本研究では,ギンネムが群落を形成してから30年以上経過した林分を対象に,100m2の調査プロットを設け,
植生
調査を行った(琉球列島-7カ所,小笠原諸島-24カ所,ハワイ諸島-28カ所).調査プロットでは,樹高1.5m以上の個体を対象とした毎木調査を行うとともに,林床
植生
を含めた出現種などを記載した.
III 結果と考察
過去の空中写真判読から,調査を行った全ての島嶼において,ギンネムが二次遷移初期に密な一斉林を形成していたことが確認された.しかし,現地調査の結果,ギンネム林が成立した後30年程度経過した林分の
植生
構造やその特徴は島嶼間で異なっていた(図1).
琉球列島では,ギンネム林は成立から30年の間に在来種に置換され,ギンネムはほとんどみられなくなった.小笠原諸島においても同様に,多くのギンネム林が遷移後期種に置換され,別の外来植物が優占する林分が成立していた.ハワイ諸島では,ギンネム林内に遷移後期種はほとんど出現せず,ギンネム林が長期間維持されていた.島嶼間での種組成の比較から,ギンネム林内に出現する種の多くが複数の島嶼間で共通しており,そのほとんどは湿潤熱帯を分布の中心とするものであった.
本研究の結果から,北西太平洋島嶼におけるギンネムの生物学的侵入による影響は地理的に異なっていることが分かった.ギンネムが優占する林分は,その原産地(熱帯
サバナ
)と類似する気候の島嶼で長期間維持される一方で,降水量がやや多い湿潤な島嶼では,湿潤熱帯に分布の中心をもつ別の樹種により置換されていた.このことは,在来種や外来種という区分に関わらず,乾湿傾度を背景としたギンネムと競合する種群の有無が,ギンネムの生物学的侵入による影響の地理的な差異の重要な要因であることを示唆している.
本研究は,平成26年度科学研究費補助金若手研究(B)「気候変化が外来植物の生物学的侵入に与える影響に関する生物地理学的研究」(研究代表者:吉田圭一郎)による研究成果の一部である.
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