本小論は, エントロピーという物理概念をツールとして, 21世紀の廃棄物の未来像を描いたものである。
廃棄物は, 人間の社会活動と表裏一体のものだから, その未来像を描くことは, 社会システムの未来像を描くことになる。ここでは今日の社会システムを, 地球という系内のエントロピーを高速度で増大させている社会という意味で, 高エントロピー社会と呼ぶ。そして, 高エントロピー社会の骨格を, 効率と便利さを追求する技術システムとプライベートセクター (企業, 個人) の経済活動の自由を優先する社会システムからなると捉えている。
高エントロピー社会の廃棄物処理は, 社会活動にともなって発生するエントロピーを活動の場からとり出し, ローカルな環境に, そして更にグローバルな環境に捨てる事業であり, この事業そのものがエントロピーを増大させている。
今日われわれが直面している課題は, エントロピーの捨場がグローバルな環境においてさえ枯渇してきていることである。
廃棄物問題にどう対処するのか。リサイクルがその解決策とされるが, プライベートセクターの経済的自由を最優先する社会では根本的な解決にならない。
低エントロピー社会, すなわち, 人類が地球生態系と共生してゆくことを最優先して, プライベートセクターの自由を制限してゆく社会によって, はじめて廃棄物問題の根本的な解決が図られる。この社会では, すべての不用物は, 生産工程に原料, 資材, 半製品として供給され, ここで再生産される。そしてこのことが生産者の責任で行われている。ごみ (製品廃棄物) の外部不経済が内部化されている。
抄録全体を表示