1)
ソメイヨシノ
の実生の成樹の内約130株について, この外部形態を調査した. 典型的のオオシマザクラとエドヒガンとに入れらるべきものを極く少数生じ, 大多数のものは両者間を連続的につなぐ形質分布を示すものであった. またその中には
ソメイヨシノ
型のものも少数出現した.
2) オオシマザクラとエドヒガンの間の交配 F
1で14株の成木を得た. これらは互の間に少しずつの差異はあるが, 形態的に見て, すべて
ソメイヨシノ
の範疇に入るものである. ただし
ソメイヨシノ
そのものよりは葉と花が大きく, 雄ずい数が多く, また1株を除いて他はすべて花色が薄かった.
3) オオシマザクラとイトザクラとの交配 F
1 は
ソメイヨシノ
よりも枝条が華奢であり, 葉と花が僅かに小さく雄ずい数が僅かに少なかった. 外見上
ソメイヨシノ
はオオシマザクラとイトザクラの F
1 というよりもオオシマザクラとエドヒガンの F
1 という方が, より適当に思われる.
4) オオシマザクラと
ソメイヨシノ
との交配 F
1で19株の成木を得た. これら19株は割合均一であった. オオシマザクラとエドヒガンの交配 F
1 で,
葉•がく•花梗の毛茸および花序の散形が優性であることを知ったが, この交配 F
1 でも, それらが当てはまった.
5)船原峠で発見したフナバラヨシノはソメイヨシに比べて葉と花が大きく雄ずい数が多い外は, すべて
ソメイヨシノ
と同じく, かつ
ソメイヨシノ
と同様に雑種強勢を示す. オオシマザクラとエドヒガンとの自然交雑によってできた F
1 と考えられる.
6) 熊本市で栽培されていたクラマザクラは
ソメイヨシノ
に比べて, 葉と花が大きく枝条に少し屈曲気味があるが, 他はすべて
ソメイヨシノ
と同じである. しかも著るしい雑種強勢を示す. このサクラもオオシマザクラとエドヒガンとの自然交雑によって生じ F
1 と考えられる.
7) 萩市で栽培されていたが現在は成木の見られないミドリヨシノは, 花色の白いという点だけ
ソメイヨシノと異なり他の形質はすべてソメイヨシノ
と同じである. これもまた徳川時代に伊豆あたりに生じたものが, ひろい上げられて庭園樹となったものと思われる.
8) 著者も伊豆と房州その他で
ソメイヨシノ
の子孫と思われるものを少数発見したが, 分類学者によっても見いだされつつある. これらの中には
ソメイヨシノ
そのものの子孫もあろうが, その他, 過去において
ソメイヨシノと同様にオオシマザクラとエドヒガンとの交配によって生じたソメイヨシノ
ようのサクラがあって, それらからの子孫もあるであろう.
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