熱帯域の原生林では、アリ類と植物、アリ類と同翅亜目類の栄養共生系が多様な発達を遂げている。近年、伐採や耕地化などの人為的攪乱によってそのようなアリと他の生物種との相利共生系の発達の基盤となった熱帯域の原生林は急速に減少し分断され、二次林や草地の面積が急増している。そこでは生物の多様性が失われるだけでなく多様な生物間相互作用が大きな変化を遂げている可能性が高い。しかしこれまで生物間相互作用に対する人為的攪乱の影響を定量的に調べた研究は少ない。
そこで、マレーシアボルネオ島サラワク州にあるランビルヒルズ国立公園内の原生林、公園の周りに散在する孤立した小面積の原生林、焼畑にするために伐採の入った年代が異なる二次林、そして粗放的なゴムプランテーションにおいて、森林伐採をはじめとする人為的攪乱がアリ類と植物、アリ類と同翅亜目類の栄養共生系に与える影響を評価した。花外蜜によるアリ類と植物の栄養共生系、オオバギ属のアリ植物とアリ類の共生系、同翅亜目類とアリ類の栄養共生系、植物や同翅亜目類と密接な関係にある
ツムギアリ
の優占度あるいは出現頻度を各調査地で測定し、それらの値を比較することで影響を評価した。出現頻度は各森林の一定面積内の樹高2m以下の株のうちそれぞれの出現が確認できた株数の割合とした。
その結果、それぞれの出現頻度が攪乱の強い森林で高くなることが明らかになった。一方で花外蜜に誘引されたアリ類やオオバギ属アリ植物の種数は、攪乱林で低くなることが明らかになった。また、攪乱の強い環境に優先的に生息する
ツムギアリ
の出現頻度が攪乱林でより多く出現した。これらのことから、人為的攪乱によって森林内部まで太陽光が届くことにより花外蜜を生産する植物や甘露をだす同翅亜目類の個体数が林床で多くなる一方、アリ類の種多様性が低くなり数種類のアリのみが植物や同翅亜目類と優占的に栄養共生的な関係を結んでいることが示された。
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