生体内では,スーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素種(ROS),一酸化窒素(NO),硫化水素などのレ
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分子が産生され,タンパク質や脂質などの生体分子に酸化還元反応を介した修飾(レ
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修飾)を施し,それら生体分子の機能に影響を与える.従来の概念では,レ
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分子は,酸化ストレスと言う言葉に代表されるように,生体内においては代謝の副産物として産生され,非特異的作用を介して他分子の機能を阻害することで,老化や生活習慣病,神経疾患等の原因因子となると考えられてきた.一方で,一酸化窒素合成酵素(NOS)を始め,各レ
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分子の合成酵素の同定と分子機能の解析が進み,脳においてもレ
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分子が発現し,少なくとも一部の合成酵素については,その活性が調節を受けている可能性が示された.これらの知見は,レ
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分子が脳において必要に応じて産生され,何らかの機能的役割,生理機能を担っていることを示唆する.実際に,脳における主要な神経伝達物質であるグルタミン酸作動性シナプスの可塑性に関連して,イオンチャネル型グルタミン酸受容体自身や受容体の膜移行を制御するタンパク質が,NOによる
S-ニトロシル化修飾を介して分子機能が影響を受ける例が,主に培養細胞を用いた系で,複数,報告されている.さらに近年,カルシウム放出チャネルの一種,1型リアノジン受容体の
S-ニトロシル化を介した活性化による新規細胞内カルシウム放出機構,一酸化窒素依存的カルシウム放出(NICR)が同定され,小脳シナプス可塑性等への関与が示されている.今後,レ
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シグナルの標的となる分子と修飾を受けるシステインの同定が進むとともに,遺伝子改変動物を用いた細胞~個体レベルでの機能解析の進展により,レ
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シグナルの生理的役割の理解がさらに深まることが期待される.
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