老性変化の研究の一環として, 腎臓の老化過程の人種差を検討するため, 在日日本人240例, 在ハワイ日本人200例, 在米白人180例の男子剖検腎について組織学的, 微計測的検索を行ない以下の所見を得た.
一般的に腎臓重量, 皮質の厚さ, 腎臓糸球体面積およびその核数, 皮質の一定面積内尿細管主部上皮細胞核数などの計測結果は, 在ハワイ日本人では, 在日日本人と在米白人のほぼ中間的な値を示した.
つぎに加齢による変化として, 腎臓重量の逐齢的減少と, 腎実質細胞としての尿細管主部上皮細胞核数の逐齢的減少と, それにともなう細胞の肥大が, 3群ともに認められたが, その減少の傾向は在日日本人に最も著明であり, 在米白人に軽度で, 在ハワイ日本人では両群のほぼ中間的であった. またこれらの変化は腎臓内の中, 小動脈の硬化との間にもある程度の関連性を認めた.
糸球体面積の加齢にともなう縮小は, 在日日本人に認められたが, 在米白人には認められず, 在ハワイ日本人では80歳代の1世に顕著な縮小が認められた.
腎臓内動脈の硬化性変化としては3群とも中, 小, 細動脈の順に硬化が始まり進展するが, 在米白人ではその始まりもおそく, また程度も軽度であったが, 在日日本人では早期に始まり, かつ高度に認められた. 在ハワイ日本人は在日日本人をしのぐ強さであった. 硝子化糸球体も加齢とともに増加するが, 動脈硬化の高度な在ハワイ日本人に最も顕著であった.
以上3群における腎臓の逐齢的消長の差を比較検討し, これらの差の原因としては, 遺伝的な人種差も否定出来ないが, むしろ生活環境, とくに栄養条件の差を重視した.
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