日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
腎臓の老化過程についての地理病理学的研究
在ハワイ日本人の腎臓を中心として
佐々 良次
著者情報
ジャーナル フリー

1976 年 13 巻 5 号 p. 308-321

詳細
抄録

老性変化の研究の一環として, 腎臓の老化過程の人種差を検討するため, 在日日本人240例, 在ハワイ日本人200例, 在米白人180例の男子剖検腎について組織学的, 微計測的検索を行ない以下の所見を得た.
一般的に腎臓重量, 皮質の厚さ, 腎臓糸球体面積およびその核数, 皮質の一定面積内尿細管主部上皮細胞核数などの計測結果は, 在ハワイ日本人では, 在日日本人と在米白人のほぼ中間的な値を示した.
つぎに加齢による変化として, 腎臓重量の逐齢的減少と, 腎実質細胞としての尿細管主部上皮細胞核数の逐齢的減少と, それにともなう細胞の肥大が, 3群ともに認められたが, その減少の傾向は在日日本人に最も著明であり, 在米白人に軽度で, 在ハワイ日本人では両群のほぼ中間的であった. またこれらの変化は腎臓内の中, 小動脈の硬化との間にもある程度の関連性を認めた.
糸球体面積の加齢にともなう縮小は, 在日日本人に認められたが, 在米白人には認められず, 在ハワイ日本人では80歳代の1世に顕著な縮小が認められた.
腎臓内動脈の硬化性変化としては3群とも中, 小, 細動脈の順に硬化が始まり進展するが, 在米白人ではその始まりもおそく, また程度も軽度であったが, 在日日本人では早期に始まり, かつ高度に認められた. 在ハワイ日本人は在日日本人をしのぐ強さであった. 硝子化糸球体も加齢とともに増加するが, 動脈硬化の高度な在ハワイ日本人に最も顕著であった.
以上3群における腎臓の逐齢的消長の差を比較検討し, これらの差の原因としては, 遺伝的な人種差も否定出来ないが, むしろ生活環境, とくに栄養条件の差を重視した.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top