肝硬変患者の胃粘膜病変の成因を追求する目的で,以下の検討を行った.(1)肝硬変患者174例の胃粘膜発赤所見を,内視鏡的に,部位,形態別に検討した。(2)肝硬変症の胃粘膜血行動態を,水素クリアランス法,及び臓器反射スペクトル解析法により検討した.(3)肝硬変患者の胃粘膜攻撃因子として,胃液酸・ペプシン活性及び,血清ペプシノーゲン1(以下PGIと略す)値を検討した. その結果(1)胃粘膜発赤所見の出現は,胃集検群に比べ,肝硬変群(以下LC群と略す)で多く,特に胃体部大彎に斑状発赤が多かった.この傾向は,食道静脈瘤が高度な程,また肝障害度が高度な程,強くみられた.(2)LC群の胃体部粘膜血流量は健常群に比し低下しており,血液量は軽度増加,酸素飽和度は有意に低下しており,胃体部粘膜血流のうっ滞が強く示唆された.LC群の中で,有発赤群はさらに血流量が低く,発赤所見は血流うっ滞が関与すると推測された.また食道静脈瘤が高度な程,肝障害度が高度な程,胃体部血流のうっ滞は増加することが示唆された.(3)胃粘膜攻撃因子は,LC群が,健常群に比べ,胃液酸は低下傾向を示し,ペプシン活性及び血清PGIは有意に低下していた.しかし潰瘍合併LC群では,非合併LC群に比べ,高い傾向を示した. 以上よりLC群における胃粘膜病変の成因には,胃粘膜血流うっ滞による粘膜の脆弱化が基礎にあり,それに攻撃因子が関与することが強く示唆された.
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