霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
曲鼻猿類の脳函エンドキャスト形態における多様性と進化のパターン
豊田 直人西村 剛
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p. 28

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抄録

曲鼻猿類は、マダガスカル島に生息するキツネザル類と、アジアおよびアフリカ大陸に生息するロリス・ガラゴ類からなる。これらは、各々の地域で適応放散を遂げたと考えられており、そこでみられる様々なニッチに適応した形態学的な特徴を示している。特に脳は、多様な感覚器・運動器を統合する場であるため、脳形態のバリエーションを解析することで、その適応放散のプロセスを一体的に明らかにすることができると期待される。本研究では、様々な生態学的特性を示す曲鼻猿類を対象に、頭蓋骨の脳函エンドキャストを作成し、彼らの脳形態の多様化のプロセスを明らかにすることを目的とした。現生曲鼻猿類の頭蓋骨CTデータから、脳函エンドキャストを仮想的に立体構築し、その形態を定量化するために表面上にランドマークをとった。それら形態データを主成分分析にかけ、形態変異の傾向を明らかにし、グループごとの特徴を明らかにした。さらに、分子系統樹を遡って祖先形態を推定し、系統樹上の進化速度やそのパターンを推定することで、多様化の過程を復元した。解析の結果、曲鼻猿類の脳函エンドキャストは、各科ごとに特徴的な形態を示すことが分かった。さらに、そのような特徴をもたらす進化のプロセスには、加速および減速する時期がみられた。これは、速度の一定性を想定する帰無仮説よりも、有意に高い周辺尤度の値によって統計的に支持された。以上の結果は、祖先種が急速に分岐していき様々なニッチを埋めていくとする適応放散の予測に合致するものであり、曲鼻猿類の脳が、そのニッチを埋めていく過程において重要な役割を果たしていたことを強く示唆する。今後、本発表では解析することができなかった化石種や他の現生種を解析に加え、生態と脳函エンドキャスト形態の関連性を詳細に示すことができれば、脳函エンドキャストのバリエーションから、適応放散のプロセスを推定する基盤が整うと考えている。

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