本研究の目的は,妊娠中絶の意思決定過程において女性が感じるアンビバレントな感情を定量・定性的に測定するための質問紙であるバランスシートを作成し,意思決定の際に感じるアンビバレンスの構造を明らかにすることである.妊娠中絶を希望する63名の女性に対し,内容的妥当性および構成概念の仮説の検討を経て作成したバランスシート(pro-terminate項目24項目・pro-continue項目24項目)を用いデータを収集した.その結果,有用なpro-terminate項目16項目,pro-continue項目16項目の分析により,アンビバレンスの構成概念としては,pro-terminate項目において<母親になることへの躊躇><重要他者との関係性><中絶の身体的影響><現在の生活維持・変化の拒否>の4因子が得られた.また,pro-continue項目においては,<母親になることへの自信・希望><中絶の心理的影響><この妊娠の価値・対価><中絶の社会的価値判断>の4因子が得られ,仮説で示された構成概念の一部が支持された.各因子ごとのCronbachのα係数から,バランスシート各因子の内的整合性における信頼性が示された.妊娠中絶を希望する日本人女性のアンビバレントな心理は,胎児の生存権を尊重する
プロライフ
と,女性自身の権利を尊重するプロチョイスのどちらか一方ではなく,妊娠中絶へ気持ちが向いているpro-terminateの態度と妊娠継続へ気持ちが向いているpro-continueの態度が併存しているという特徴が明らかになった.また,女性自身の意思決定のためと医療従事者が女性を理解するための用具として,バランスシートの利用の可能性が示唆された.
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