Aegilops crassa 細胞質により引き起こされる,日長感応性細胞質雄性不稔(PCMS)を利用した,雑種コムギ育成のための「二系法」が提案されている(Murai and Tsunewaki 1993.1995)。つまり,PCMS系統は短日条件下(14.5時間以下)では可稔であるため,自殖により維持・種子増殖が可能であり,長日条件下(15時間以上)では不稔となるため,稔性回復系統との他殖により,F
1種子生産が可能となる。本報では,この「二系法」の実用性を検討するため,長日条件の得られる北海道端野町での春播栽培により,F
I種子を生産し,短日条件の兵庫県加西市で雑種コムギの農業形質の調査を行った。F
1種子の生産には,PCMS系統としてAe. crassa 細胞質を導入した農林26号,シラサギコムギ,ジュンレイコムギを,花粉親として稔性回復遺伝子を持つユタカコムギ,ニチ
リンコム
ギ,ダンテコムギを用いた。F
1種子生産試験の結果,PCMS系統の結実率は14-33%で,F
1純度47~88%の9組み合わせのF
1種子19~55g/m
2を採種することができた(Fig.1,Table 1)。結実率は花粉親によって異なり,PCMS系統よりも長稈の花粉親を用いた場合,高い結実率が得られる傾向にあった。F
1種子にはしわ粒や穂発芽粒が混入し,リットル重の減少,発芽率の低下が認められた(Table 2,Fig.2)。F
1純度が65%以上のF
1雑種4系統について,農業形質の調査を行った。その結果,4系統のF
1雑種は全て,両親系統より一穂小穂数が多く,千粒重が大きく,多収であった(Table 3)。最良雑種コムギでは中間親に対して40%,優良親に対して37%の収量ヘテロシスが得られたことから,本システムの実用性が示唆された。また,雑種コムギが両親と比較してリットル重が大きい傾向にあることは,Ae. crassa細胞質を持つ雑種コムギ子実の外観品質が両親より劣っていないことを示している(Fig.3)。
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