吉益東洞,我が国江戸時代における,所謂“古医方”最大の医家であるが,彼の医学思想については,未だ論究の及んでいない点もあるように思われる。そこでこの東洞の医学思想について,中国古代の医学に鑑み,その万病一毒説を中心に考えてゆきたい。
そこで先ず,東洞がその万病一毒説の淵源としている『呂氏春秋』「尽数篇」を取り上げ,そこにおける
中国医学
の基本的な考え方,即ち天地一体の思想を垣間見て,更にそれをその他の
中国医学
古典において概観してゆく。このような医学思想的観点からの
中国医学
との対比が,従来の東洞研究に欠けていたのである。
その結果,東洞がそれらを吸収しその根底に置きつつ,更に弛まぬ医学的実践に基づいて,独自の“漢方医学”を樹立したことが分かる。即ち,彼は
中国医学
の伝統を守りつつ,敢えて峻剤を用いて病毒を去る,という臨床的姿勢を貫き,かつ生薬1つ1つの薬効の分析に意を注いだのである。彼こそ正に“日本漢方の父”の1人であると言えるであろう。
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