本稿は, 現代の音楽祭をめぐる場において行われている, 市民に対する社会教育的な事業や, 市民による新たな文化創造に焦点化しながら, 音楽祭と市民社会との関係性の新たな一側面を明らかにすることを試みた。これまで音楽祭に関する研究では, 特定の音楽家らの活動や, 非日常的な場としての祝祭的な性格について言説が交わされてきた。しかし本稿は, 事例として『サイトウ・キネン・フェスティバル松本』 (長野県松本市) を取り上げながら, 近年の音楽祭が, 市民社会との関わりを築く意識を持ち, 様々な社会教育的な意義を持つ活動を実施したり, 市民による文化活動の場を生み出したりしている点に着目した。この点を文献調査と, フィールド調査における聞き取りによる方法によって調査し, 今日の音楽祭が市民社会との関わりを持つことの意義や, 求められるべき視座を提言するものである。
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