NMRでカーボン(13C)のつながりを直接調べることは有機構造解析における究極の手段である。13Cの天然存在比が1.1%であることから、13C/13C相関法の感度は低く、その利用は限定的である。従来から用いられてきたINADEQUATE法(13C観測)に対し、プロトン(1H)観測として高感度化したADEQUATE法1) が提唱されたが、測定が難しいとされ、天然物への適用例は少ない。本法の天然物構造解析への現実的な応用を検討し、HMBC法では検出が難しい4結合以上を隔てた13C/1H相関の検出、および生合成研究におけるラベル酢酸取り込み試料の測定を行った。
ADEQUATE法は1H→13C→13C の二段階の磁化移動を経ている。それぞれを直結のJカップリング(1JCH, 1JCC)だけではなく、2-3結合を隔てたLRJCH, LRJCCに最適化することができ(図1)、HMBC法では通常検出が難しい4結合以上を隔てた13C/1H相関も可能となる。一般に13C観測から1H観測にすると感度は向上し、また、繰り返し時間(RD)を短く設定できるが、その半面、不要シグナルの消去が問題になる。たとえば、HSQCやHMBCでは13Cに結合していない1Hが100倍あり、これを
位相回し
やグラジエントパルスにより消去しているが、消え残りがt
1ノイズを生じることがある。ADEQUATE法の場合、目的の
1Hシグナルは
13Cを2個含む分子であり、10
4倍の不要シグナルの効率的消去が必要となる。そこで、近年使用可能になった
13C広帯域パルスの使用により発熱の抑制と均一励起を行うことで、厳密で安定した実験を目指した。
NMR測定はBruker AVANCE I (1H:500MHz)装置で行った。プローブは、化合物3の測定には 2.5 mmφ C/H Dul-z grad (13C観測) を、それ以外のADEQUATE測定には5mmφTXI-xyz grad (1H観測)、 INADEQUATE測定には5mmφC/H Dul-z grad (13C観測)を用いた。
1. ADEQUATE法とINADEQUATE法の比較
まず、INADEQUATEを10時間で測定できた試料 (クロトン酸イソブチル1, 114 mg / 0.5mL CDCl3)で、ADEQUATEに必要な測定時間を調べたところ、15分で全相関を検出できた(図2)。INADEQUATEおよびADEQUATEスペクトルの縦軸はカーボンの化学シフト(dC)または二量子周波数とする二法があるが、感度面で有利な後者とした。二量子周波数は、13Cパルスの中心からシグナルの位置を測った値(Hz) の二つの13Cについての和である。二次元スペクトルの縦軸の中心がゼロHzとなるが、ここをゼロではなくパルスの中心の二倍の値として縦軸をppm表示すると、シグナル位置は相関するdCの和(ppm)になる。たとえばC3/C4の相関ピークの縦(F1)方向の位置はdC-3(144.0)+dC-4(17.6) = 161.6 ppmである。横(F2)方向は、(a)はdC-3とdC-4に、(b)ではdH-3とdH-4に出る。C1/C2の相関ピークは(b)ではF2はdH-2だけに出る。
2. 3結合以上離れた1H/13C相関の構造解析への応用
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