日本の食と健康を考える場合,「食」と「健康」の内容
に関する深い理解に基づいた検討が必要である。健康の定
義は,世界保健機関(WHO)の憲章前文に明記されてい
る。すなわち,「健康とは病弱とか疾病でないだけでな
く,肉体的にも精神的にもそして社会的にも完全に良好な
状態である。」と。
1.体の健康と「食」
現代の健康障害は,食生活の不適切さを背景として発症
していることが明らかにされている。この不適切さの原因
は,個人,家庭などと同時に,食料の生産,加工,流通,
消費体系,食環境に多く指摘できる。「食」の価値観を左
右する社会のしくみにも目を向けなければならない。食生
活構造を変革する国民的運動が必要である。
2.心の健康と「食」
心の健康を障害させるような「食」は見直されなければ
ならない。筆者は,「ものごとに対して創造性を働かせ,
科学的,芸術的,文化的,歴史的に深く認識し,行動でき
る精神状態」を,健康な心の判断基準にしたいと考えてい
る。この視点は,わが国の文化の深部の力となっている食
文化をどう捉え,どう発展させるべきかということとも深
く結びついている。
3.社会の健康と「食」
「個人としても,集団としての人間としても,一人一人
が限りない可能性を持つ者として,その存在を大切にさ
れ,お互いが力を合わせながら,その可能性が十分に発揮
できる社会の実現をめざしている社会の状態」。この視点
は,食糧を他国に依存することの危険性,独立国として自
国の尊厳を守る重要性などを認識するうえでの,市民の視
点としても重視したい。食糧の生産者が,その可能性を否
定され,誇りを失わさせられるような社会,消費者が,身
の危険を感ずるような食糧を摂取しなけらばならないよう
な社会のあり方も改められるべきである。
4.おわりに
体と心と社会の健康を同時に求める食は,自国に根ざ
し,季節と地域,生産者と消費者の関係を重視した中から
築かれるのではなかろうか。その実現に取り組んでいるグ
ループがすでに生まれている。そのような人々が多くなる
ように連帯して進みたい。
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