牧場採草地における省力かつ効果的なシカ侵入防止法を開発することを目的とし, 電気柵 (非通電) に対する飼育シカの行動反応を明らかにするとともに, シカの体表における電気 (嫌悪) 刺激の感受部位を検討し, 採草地での電気柵 (通電) の設置が野生シカの侵入に及ぼす影響を検討した.1) 高さ140cmの非通電電気柵 (地上高30, 60, 100および140cmの4段張り) に対し, 飼育シカは強い警戒を示した.電線に触れた個体は7頭中1頭のみであり, その個体は口唇で23回 (日中7時間) 電線に触れた後, 1~2段目 (30~60cm) を通り抜けた.口唇による探索行動は2段目 (60cm) で最も多く, 次いで1段目 (30cm) , 3段目 (100cm) の順であり, 4段目 (140cm) では観察されなかった.2) シカの体表における電気抵抗値は口唇で30, 000Ωであり, 被毛で覆われた他の部位 (前頭部, 背部, 腹部および右前肢) におけるそれらよりも極端に低く, 1/6, 000~1/3, 000であった.3) 採草地周囲に張った高さ140cmの通電電気柵 (瞬間電圧約4, 000ボルトのパルス電流, 地上高30, 60, 100および140cmの4段張り) は金網・ネット併用柵 (高さ175cm) に比べ高いシカ侵入防止効果を示した.以上より, 電気柵の設置直後に高圧電流を確実に流すことで高いシカ侵入防止効果が得られることが示された.
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