抄録
ホウオウゴケ属(Fissidens)の蘚類,キャラボクゴケ(F. taxifolius)とコホウオウゴケ(F. teysmannianus)は,多雪地域に広く分布する普通種である.植物体の大きさは約5ミリで,両種の特徴は,主に腹翼の細胞表面の突起の形状の違いによるので,顕微鏡下では区別できるが,野外で両種を区別して観察することはできない.そのため,両種の生態的な住み分けや分布の違いの要因を解明することは極めて難しい.本研究の目的は,多雪地域における両種の分布の実態を把握して,それぞれの環境要因を統計解析して,環境要因に対する適応の差異を解明することである.
キャラボクゴケは,コホウオウゴケよりも,夏季の乾燥耐性が比較的強く,多湿に比較的弱いことが,分布のわずかな差異に反映していると考える.少雪地域では,両種の夏季の乾燥耐性の差異が,分布に大きく影響するかもしれない.