ベッカーのアート・ワールドの議論では、表現に直接かかわる職種と、それを支える職種の線引きが当事者のなかでなされていることが指摘されてきたが、そうした職種が置かれた組織構造に関心が払われてこなかった。本稿では、日本のアニメ産業におけるデジタル化推進の動向を事例に、アート・ワールド上の線引きと組織構造の関係を議論した。 とくに、表現を担うアニメーターの管理を行う職種である、
制作進行
をめぐる業務変更の正当化の論理に着目した。 デジタル化を推進する経済産業省による報告書・アニメーターへのインタビュー・
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の労働実態に関する報告書を援用しつつ、以下のことを明らかにした。
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の業務は、表現を担う仕事とされていないものの、組織構造の観点では制作会社というヒエラルキー組織とアニメーターのネットワークというネットワーク型組織の結節点として位置づけられた。 経済産業省による報告書では、
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による対面的な情報伝達をオンライン化し、情報管理を担う職種へ転換することが期待されていた。こうした転換は、表現を担うアニメーターの技術への変更を伴わず、国際競争力の強化や労働現場の改善に寄与するとされることで、正当化されていた。しかしこれは組織構造上の位置づけを等閑視した方針となっており、結果的にアニメーターにも不利益をもたらす可能性がある。こうした分析を通して、アート・ワールドに関わる成員を社会学的に論じる際にそのなかでの線引きのみで議論するのではなく、組織構造の位置づけも同時に考察する必要があることを明らかにした。
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