今世紀における科学技術の発展は目覚ましく, 医学・医療の分野においても, X線CT(Computerized Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging, NMR CT)など各種医療機器の開発によって客観的計測・診断技術や制御・治療技術あるいは情報処理技術が提供され著しく高度化された. 医師にとっては「見えなかったものを見る」, 「聞こえなかったものを聞く」, 「手の届かなかったところに手を伸ばす」という夢が現実のものとなり, 診断や治療技術はかつてないほど急激に進歩しつつある.
医用生体工学
はこうした医学と工学の接点に位置する学問で, 工学の医学への応用にとどまらず, “科学技術と, 人間を含む生物との共生”という考え方を広め, かつそれを可能にする技術の開発を目指している.
医用生体工学
は比較的若い学問分野であるがこの数十年間, 大学や研究機関のエム・イー関連学科や講座の研究者あるいは日本エム・イー学会およびその関連諸学会に支えられて発展してきた. また日本学術会議の
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研究連絡委員会および医療技術開発学研究連絡委員会の活動などによって,
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に対する学問的および社会的な評価が徐々に高まってきた.
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の研究環境は欧米に比べて著しく遅れていたが, 最近になって大学院に
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専攻, 学部に
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専門学科が開設されるようになった. 最近の世界的な動向をみても, 工学系の各分野がこぞって研究領域を
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分野べ拡充しようとしている.
しかしながら, 科学技術の想像を越える急激な展開は人間と機械の共生について新たな問題を投げかけている. さらにより現実的な問題として, この分野でも, 先端的な研究へのニーズや, 研究者および指導者はもとよりコメディカル職員などの人材養成に対するニーズが高まり, それらに対する早急な対応が迫られるようになった. しかも十数年後には人類が経験したことのない速さで社会の超高齢化が始まる. わが国のように労働賃金の高い先進国において, 高齢者の看護のために,
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機器の適切な援用は極めて有効であり欠くことができない. さらに医療技術の向上を図るばかりでなく, 人々の精神的に豊かな生活を支援するための活動をすべきである. また今日のわが国の国際的な役割を考えるとき,
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分野の果たすべき役割は国内的なものにとどまらない. 諸外国の
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関連機関との交流をさらに深めるべきである. 現在, 国際社会は複雑化してきており, 広い意味での国の外交は高度な専門知識なしには成り立たない. 医療分野で世界に貢献するには, わが国が率先してWHOやユネスコなどの国連の機関を通じて活動を広める必要がある. このような平和的活動こそ我が国が国際社会から求められているものであり, そのために進んで貢献すべきものと考える.
近年生命科学分野における研究の重要性が叫ばれ, その推進計画は先進各国で活発に討議されて答はひとつである. 50年前, 産官学の密接な連係と強力な指導力の下で実行された「傾斜生産方式」であった. 今こそ再び産官学の密接かつ強力な指導性が求められている.
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