医療行為
の承諾の場面では, 患者の判断能力が要求される. 患者に判断能力があれば承諾は有効となり, なければ無効となる. そして後者の場合, 代行判断者を立てる必要が出てくる. この代行判断者を立てるべきか否かを決定するための患者の判断能力の有無の判定基準たる判断能力の概念は, 通常, 「自己の身体に対してなされる
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の内容・性質, 利益・不利益などを理解し, それに基づいてその
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を承諾するか否かを判断する能力」 などと理解されている. しかし, このように, 当該の具体的
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を基準にして判断能力の概念が定立されるならば, なされようとしている当該
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が高度な判断を要するものである場合, 通常程度の社会的な判断力を有する成人患者であってもそのような高度の判断能力を有していなければ 「判断能力なし」 , したがって 「承諾は無効」 , とされてしまう. こうした場合, 患者は通常は, 医師を信頼して, あるいは, いわゆるセカンド・オピニオンを求めたうえで当該
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を承諾するであろうが, そのような承諾を無効とはいえないであろう.
このような矛盾を避けるために, そうした判断能力の概念は一般的, 抽象的な意味での 「
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」 の概念を基準にして定立されるべきである. すなわち, そのような判断能力とは, 「一般的, 抽象的な意味での
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の概念を理解し, 判断する能力」 である.
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