9歳11ヵ月女児に,上顎両側犬歯の萌出異常が認められ,左側のみ側切歯歯根吸収が著しく,抜歯を余儀なくされた症例を経験した。そこで,本症例の臨床所見および治療経過を述べるとともに,側切歯歯根吸収の原因を推察し,さらに切歯歯根部の異常吸収に対する診査の要点などを検討し,以下の結論を得た.
1.上顎左側側切歯歯根吸収については,犬歯の萌出異常と短期間で生じた急速な傾斜,嚢胞の存在,さらに前歯の短根傾向とが重複していたことが原因であると考えられた.
2.上顎両側犬歯の萌出異常は,歯と顎骨の不調和,いわゆるdiscrepancyに起因するものではなかった。
3. 10歳頃,口腔内診査を行い,犬歯歯冠部の位置が確認できない場合や位置異常がある場合,また側切歯の傾斜などがみられる場合は,歯根吸収の危険性を考慮し,パノラマエックス線写真などのレントゲン診査を行う必要があると思われた。
4.パノラマエックス線写真で,犬歯歯冠部が著しく近心位にあり,その歯軸傾斜が近心に強い場合には,注意深い観察が必要である。また可能であれば,犬歯と切歯の位置関係および切歯の歯根吸収の位置と程度を確認するために,断層エックス線写真撮影を行うことが好ましいと思われた。
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