日本の蛇紋岩遺存種であり
危急種
にランクされているオゼソウのクローン成長の様式を, 北海道北部天塩地方産の個体をもとにして調べた。一年間の成長量が90ミリにも達する地下茎は長年月にわたって維持され, あるクローンでは最低24年が見積られた。地下茎は仮軸分枝し, その頂端は根出叢生する葉を持つ地上茎(葉束)となり, 葉は1シーズンのみ維持される。根生葉が枯れた地上茎のうち, いくつかの地上茎は次の年に花茎を持つ。このように地上部のラミートだけを見ると2年生のように見える。各地上茎の基部から複数の地下茎が伸長する「分枝部分」と1地下茎が伸びる「非分枝部分」とが認められる。「分枝部分」では年間伸長量が大きい地下茎や花茎を持つ地上茎がしばしば見られ, 「非分枝部分」では年間伸長量の少ない短い地下茎が連続する傾向がある。「分枝部分」のうち, 2本の地下茎を伸長させる場合は長い地下茎と短い地下茎とに分化する傾向がある。花茎を持つ地上茎の近くには短い地下茎で連結された葉束が形成されやすく, 当年葉を持たない花茎の成長に寄与していると考えられる。地下茎による旺盛なクローン成長は, 崩壊しやすい蛇紋岩斜面に生育するオゼソウにとって一定の適応的意義を持つと推察される。本属のユリ科における分類学的位置を明らかにするためには, さらに近縁属における地下部の形態研究が必要である。
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