【目的】大腿骨頚部骨折の治療目標に歩行能力の再獲得が挙げられる。しかし、受傷前の歩行能力と同等のレベルに達するのは約4割にも満たないという報告がある。当院では術後約1週間理学療法を実施し、病診連携を用いてその後のリハビリテーションを回復期病院に委ねている。今回、転院後の歩行機能予後について調査を行い、人工骨頭置換術施行後の受傷前歩行能力の再獲得に影響する因子について検討したので報告する。
【対象】平成14年1月から12月までに当院に入院した人工骨頭置換術施行症例56例のうち、受傷前の移動能力が室内歩行以上であったものは43例であった。そのうち、転院先より情報を得ることができた28例を対象とした。
【方法】当院転院後の経過や転帰について回復期病院よりアンケート形式を用いて調査した。最終的な歩行能力が受傷前歩行能力と同等以上の群(以下再獲得群)と低下した群(以下低下群)の2群に分類し、受傷前歩行能力再獲得に影響する因子を当院在院中の項目から検討した。診療録より後方視的に調査を行い、年齢、性別、痴呆の有無、入院から手術までの日数、入院から理学療法(以下PT)開始までの日数、端座位獲得までの日数、車椅子乗車までの日数、荷重開始までの日数、受傷前歩行レベル、当院転院時歩行レベル、当院転院時基本動作能力について検討を行った。項目の群間比較には、χ2検定またはMann-WhitneyのU検定を用いて統計学的に解析し、危険率5%未満を有意とした。
【結果】対象28例中、歩行が可能となったのは26例(92.9%)であった。また、各群の内訳は再獲得群では独歩3例、杖使用4例、歩行器使用3例の計10例(35.7%)、低下群では独歩→杖使用9例、独歩→歩行器使用6例、独歩→車椅子2例、杖使用→歩行器使用1例の計18例(64.3%)であった。両群間で有意差を認めた項目は受傷前歩行レベル(p<0.0001)、当院転院時歩行レベル(p=0.0055)であり、他の項目については有意差を認めなかった。
【考察】歩行獲得率に関しては報告者により多少異なるが約70%程度とされ、今回の結果は諸家の報告より若干良いものとなった。また、影響因子として多くの報告者が指摘している年齢や痴呆に関しての関連は認めなかった。今回の結果から、受傷前の歩行レベルが高いほどその能力は低下しやすいということが分かった。小川らの報告では63.5%が歩行レベルの低下を来たし、そのレベルが高いほど低下する確率は高いという結果が得られており、我々の報告も同様なものとなった。また、急性期での歩行練習進行度が最終的な歩行機能予後に影響する因子であることが明らかとなったことから、より早期の歩行能力向上に向けたアプローチが歩行機能予後改善に有効と考える。今後、症例数を増やし歩行能力向上を阻害する諸因子についての検討が必要と考える。
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