(1)はじめに
大都市内部におけるオフィス立地を研究する際に、都心、副都心、新都心以外の地域でのオフィス立地はほとんど関心が持たれてこなかった。都心への集中立地は厳然たる事実であり、郊外立地オフィスがあってもそれぞれの地域において主要な土地利用・景観になっているわけではない。一方、都心へのオフィス集積が、道路や公共交通機関の混雑、長距離通勤をはじめとして様々な都市問題を引き起こしている部分があるのも事実である。そこでオフィス立地と都市全体の空間構造との関わりについて検討し、都心以外の地域でのオフィス立地の可能性について考えていきたい。本研究では支店オフィス、特に名古屋支店に注目する。広域を対象にしたオフィスこそ都市構造に大きな影響を与える可能性があるためである。都心外に立地するオフィスが積極的にその立地点を選択していて、同様の属性を持つ企業が多数存在するならば、今後、立地動向に変化をもたらし都市構造が変化する可能性がある。
(2)研究方法
対象とする支店オフィスは名古屋市内に立地する名古屋支店等である。名古屋支店は(株)NTT情報開発による「タウンページデータベース」から事業所名に、中部支社、名古屋支店など24のキーワードが含まれているものを抽出した。はじめにGISを利用しながら市全体での立地状況、業種毎の特徴を検討する。また、オフィスの所有形態や立地年次、移転、営業対象などについての情報を入手するため、全16区のうち都心3区を除いた13区の名古屋支店に対して郵送によるアンケート調査を実施した。
(3)業種別・地域別立地動向と立地要因重要度評価
名古屋市内には7,905の名古屋支店が立地し、その分布は都心への集中が明らかではあるが、業種によってその構成はかなり異なる。「金融・保険・証券」など6業種では都心3区の占有率が70%を越えて都心集中型業種と言えるが、一方で「運輸・倉庫」など9業種では半数に満たない。区別に業種毎の立地数や特化係数を見ると、特徴的な立地傾向として港区の「運輸・倉庫」、
名東
区の「医薬及び医療機械器具」などがある。
アンケート調査から立地要因に関わる重要度評価を見ると、JR名古屋駅や都心への近接性は都心周辺部や
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区で比較的高いもののそれ以外の地域ではとりわけ高くはない。一方、地下鉄駅への近接性は地下鉄沿線区では高く、高速道路へのアクセスはほぼ市内全域にわたって重要度評価が高く利用頻度も高い。
(4)特徴的な業種の立地
都心以外の地域にも特徴的に名古屋支店が立地する業種がいくつかある。例えば「運輸・倉庫」では、名古屋港に関連する業務を行うオフィスや現業部門を併設する陸運関連の名古屋支店が港区に多数立地する。また「医薬及び医療機械器具」は、都心以外に都心と名古屋ICを結ぶ
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区や千種区に多数立地している。これらは営業対象が病院・医院・ドラッグストア本部などであり広域に分散しているため高速道路も利用した自動車による営業活動を行う。そのためICへの近接性を求め、駐車スペースの確保も重要である。「音響及び通信・コンピュータ機器」、「繊維機械及び精密機械器具」も類似の要因を持ち、これらは都心に加えて
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区への特化した立地がある。営業の対象は自動車や同部品、電気機器などメーカーの開発部門、研究所、工場やチェーンストア本部であり都心には少なく、やはり自動車により移動する。
(5)おわりに
都心への集中は事実であるがそれ以外の地域への立地も相当程度認められる。都心以外に立地する支店オフィスの特徴としては、まず営業対象とそれにともなう移動手段がある。一部にチェーンストア本部が営業対象となるものもあるが、多くは工場、研究所、病院などの現業部門であり、広域に分散して立地している。そのため自動車による移動が主となる。その傾向が顕著な
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区は高速道路のIC、都心に直通する地下鉄の両方を備え、加えて主に昭和40年代以降の土地区画整理により潤沢な土地供給がなされた。これらの条件を満たす地域においては同様に支店オフィスが立地する可能性があり、他の大都市においても同様のことが考えられる。
都心以外に立地する名古屋支店には離心的移転によるものも多く、今後も徐々にそうした動きは進むであろう。ただし、このことは都心の業務機能が大きく衰退することにはつながらない。むしろ、おそらく今後、オフィス機能に関しても都心回帰の傾向が出てくると考えられるが、例えば職住近接などの視点から、今一度、オフィスの郊外立地に注目しても良いのではないだろうか。
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