酢酸菌の作るセルロースはバクテリアセルロースと呼ばれ, 木材, 綿などの高等植物のセルロースに比べて, 非常に微細で均一なミクロフィブリル形態を持っており, またリグニンやヘミセルロースを含まない純粋なセルロースから成っているのが特徴である。そのためバクテリアセルロース単独あるいは有機・無機を問わず他の材料と複合材料を形成させた場合, 従来の木材セルロースにはない優れた物理的性質を示すことが知られており, 新しい素材として注目されている。その例として音響振動板, 食品, 分離膜への応用などが検討, 報告されている。この材料を製紙用機能化材料として抄紙系に応用した場合, 添加量が増えるにしたがって, 混抄シートの静的ヤング率, 引張り強度, 寸法安定性などの力学特性が大きく向上する。バクテリアセルロースの極めて微細で, しかも偏平な断面を持つリボン状のミクロフィブリル形態が, 紙層間に複雑な高次構造を構築するのに有効に作用するために, パルプ繊維自体あるいは繊維間結合を補強するバインダーとしての効果が大きく現れたと考えられる。また, シート中に填料を効率良く歩留まらせる効果が大きいことも報告されている。バクテリアセルロース自体の生産性およびコスト面や, 抄紙時のろ水性が著しく悪化するために添加量を大きくすることができないなどの問題点があるが, 抄紙方法, 塗工方法の改善等に関する検討も行われており, 今後さらにバクテリアセルロースによるセルロース系材料の高度な機能化, 多様化が図られることが期待される。
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