【はじめに、目的】当院では岡山県
和気町
在住の高齢者を対象に,理学療法士が運動教室を運営し,運動の継続と習慣化により体力維持・向上を目的とした活動を実践している.理学療法士が運動教室に関わる最大のメリットは,運動機能の維持・向上に対して専門的に助言,指導ができることであり,その身体機能の効果判定として柔軟性,筋力,バランス能力,歩行能力などの測定を行なっている.しかし,測定項目に筋肉量を加えた報告は少なく,筋肉量を測定することで,より効果的な身体機能の管理が可能と考える.今回,運動教室参加者の筋肉量測定を導入することで,理学療法士が地域活動へ取り組む予防プログラム立案の一助となればと考える.【方法】当院主催の運動教室の主な内容は,休息を含め約90分で構成されており,各参加者の運動能力に応じて柔軟体操や筋力トレーニング,バランストレーニングに加えレクリエーションや健康に関する講話である.平成23年4月から平成24年11月までに運動教室に参加した60歳以上の
和気町
在住高齢者を対象とし,参加者の中で筋肉量が測定可能だった男性19人,女性76人,計95名(74.2±7.0歳)を対象とした.筋肉量の測定には,体組成計(株式会社タニタ,BC-612)を使用し,立位にて上肢,下肢,体幹部および全身の筋肉量を測定した.【倫理的配慮、説明と同意】本調査を実施するにあたっては,全ての対象者へ事前に調査及び研究の目的・方法を口頭及び書面にて説明した.その際不利益やリスクがなく,個人が特定されることのないようプライバシー保護に十分配慮し,データは統計的に処理することを伝え同意を得たうえで調査を実施した.また,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関して,研究者が勤務する法人の倫理委員会において承認を得た.【結果】運動教室参加者の筋肉量は全ての部位で男性が女性よりも有意に多く,先行研究による日本人の平均筋肉量と比較すると,男女とも上肢,下肢,全身において有意に高い値を示したが,体幹部においては低い値であった.継続的に運動教室参加の対象者においても,筋肉量は全ての部位で加齢に伴い漸減していた.筋肉量の部位別の推移は異なり,効果が高かったのは下肢で,次に上肢,全身,体幹部の順であった.全身筋肉量の10%が上肢,37%が下肢,体幹が53%で構成されていた.【考察】本研究の運動教室対象者の身長および体重は,平成22年国民健康栄養調査と比較した場合,年齢ごとの値は近似していた.よって運動教室の参加者は平均的な日本人の集団から偏ったものではないと考えた.しかし,運動教室に自主的に参加している高齢者は,自分で開催場所まで来ることができるだけの移動能力を有している者である.高齢期では歩行や階段昇降などの下肢筋力を必要とする移動能力が他の機能より先行して障害されるとされている.運動教室では転倒回避を目的に,下肢筋力向上を中心とした運動プログラムを取り入れ指導しており,下肢筋肉量が他の部位と比べ効果が高かったと考える.体幹部の筋肉量はMRI法にて筋厚を評価した研究では,脊柱起立筋および腹直筋は男性で30歳代,女性で40歳代まで増加し,その後は減少傾向を示すと報告されている.また上肢と下肢とは異なり,体幹部筋肉量は姿勢保持に最も働き,加齢に伴う変化が少ないと考えるが,今回の結果では最も効果が低かった.参加者の運動中における転倒予防を考慮したことにより,臥位や椅坐位中心の運動プログラムであったこと,下肢を中心とした運動プログラムであり上肢や体幹部に対する運動プログラムが少なかったことが要因と考える.今後の運動教室の課題として,自重を用いた全身運動をプログラムに取り入れる必要性があると考える.【理学療法学研究としての意義】運動教室において体組成計を使用し筋肉量を測定することは,筋肉量の低下防止に向けた高齢期の健康づくりを支援する上で重要である.特に下肢筋肉量の減少は下肢筋力低下を招き,転倒や転倒に伴う骨折へと進展していくため,今回の報告は重要なものと考える.
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