本稿の目的は,尖頭器石器群の性格について,再評価を試みることである。そもそも本石器群では,石材消費も含めて,石器製作のあり方が大きく転換したことが指摘されてきた。この意味で,尖頭器石器群は重要な問題を内包した石器群と評価される。それだけに,先史時代研究のなかで,本石器群の研究に期待される部分は大きい。
こうしたなかで筆者は,尖頭器石器群における道具利用に注目した。つまり,これまで「いかに作られたか」という側面が注視されてきたなかで,「いかに利用されたか」という側面へと視点をシフトした。そして,こうした観点から尖頭器石器群の特徴を把握し,またその位置づけを探ることを目指した。
上記した目的を遂行するにあたって,本稿では尖頭器石器群の道具保有状況を検討した。その結果,本石器群に共通した傾向として,器種構成が単調であり,加工具に乏しいことを確認した。また,これら道具保有状況の検討に加えて,尖頭器自体の機能を再検討した。とくに使用痕,出土状態に注目した結果,それが多機能な道具であることが把握された。つまり,尖頭器は狩猟具,刺突具として利用されるのみならず,加工具的な用途にも用いられていたことが示された。
以上の分析をとおして,尖頭器石器群における道具利用が浮かび上がってきた。すなわち,本石器群では保有器種が種類,量ともに限られるなかで,尖頭器に機能的重心を置いた道具利用が進められている。このように,尖頭器石器群では機能集約的な道具利用が推し進められており,他の石器群とは異なった道具利用戦略を認めることができる。言い換えるのであれば,先史時代のなかでも独特の道具利用を進める石器群として,尖頭器石器群を評価することが可能である。
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