標題の順序で
塑性加工
の工具と材料によって構成される問題の解説を試みるにあたり,まずこの問題が加工において占める位置の認識から入りこもう.それは,課題の潤滑などが
塑性加工
の目的に対してどんな意味をもちうるのかを明らかにしておきたいからである.
切削加工では以前から,材料の機械加工性とか被削性という言葉が定義され,広く用いられたが,
塑性加工
にも,とにかく
塑性加工
性とか成形性とかいう言葉はある.
塑性加工
性の定義を機械加工性にならって書くと次の3項目の複合となるであろう.
(1) 破壊することなく永久変形して所望の形状に達する性質.
(2) 工具の寿命を長びかせる性質.
(3) 表面の仕上状態を良好にする性質.
これが
塑性加工
の月的に対する材料の適性である.
第1項は,おそらく真の
塑性加工
性(tru formability)と言って脚、半であろう.変形を強制された材料が予定の形に達しない前に割れては意味がないし,予定の変形が達せられたかに見えても,工具の強制から解放された材料が,素材原形に復帰するようでも困る.第2項は
塑性加工
の研究者の多くが軽視しがちになるが,工具が急速に損耗し頻繁な交換を要するようでは元来
塑性加工
の経済性はえられない.第3項は,
塑性加工
が部品の粗形をつくり出す範囲を担当する限り重要性をもたないであろう.しかし,板金成形の多くは最終仕上がり製品を目ざしているし,精密な冷間鍛造製品も同様である.将来の熱間鍛造もねらいは精密級製品に置かれるから,寸法誤差と相まって表面の質が改善されなければならない.
ところで,以上のような加工目的と,工具・材料間の問題との連関は次のようである.長年の慣行によって手法基準が確立しているような加工は別として,新規の問題などでは変形を促す工具の刺激が元来どういうものか厳密には予測できないことが多い.それは,工具・材料の接触面直角変位は規定できても,接線変位すなわち工具と材料が接触面に沿う方向にどのような相対変位を行なうかが定まらないからである.だから,この相互作用の理解は工具が材料にもたらす変形刺激の根底をなし,ひいて,工具の摩耗や製品表面の質を定めるものとなる.互いに作用し合う固体の対偶をO.KienzleはWirk-paar(作業対偶)と呼んだが,機械加工の理解はそこで生ずる作業対偶の理解であると言っても過言ではない.本文では
塑性加工
の作業対偶を説明することになる.
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