移植適応は禁忌事項のない難治性心不全であるが,NYHA分類と生命予後は必ずしも一致せず,運動負荷試験による最大酸素摂取量(peak VO2)14ml/kg/分以下という基準がよく用いられる.また,心筋症家族歴有の症例,さらに小児は成人より進行が急速であるため注意が必要である.補助人工心臓装着例では,待機中の感染症や血栓形成,前感作抗体出現に注意が必要であり,不可逆性の肺高血圧症例(肺血管抵抗6Wood単位以上またはtranspulmonary gradientが15-20mmHg以上)では心肺移植の適応となる.移植後の管理は,(1)免疫抑制療法,(2)拒絶反応の診断と管理,(3)感染症の管理,(4)薬剤副作用の管理,(5)移植心冠動脈病変(いわゆる慢性拒絶反応)への対応に分けられる.移植後早期の免疫抑制療法は,シクロスポリン(またはタクロリムス),アザチオプリン(またはミコフェノール酸モフェチル),ステロイドの標準的3剤併用療法が用いられ,ときにOKT3モノクローナル抗体等を併用する(4剤併用療法).反復性(持続性)拒絶反応に対してはメソトレキセート併用やステロイド少量持続療法等が工夫される.このような免疫抑制は悪性腫瘍の発生頻度を高め,使用薬剤特有の副作用として,高血圧,高脂血症,糖尿病,肝障害,歯肉肥厚,手指振戦等をもたらす.心筋生検は拒絶反応確定のために術後早期から定期的に行われるが,施行回数が増えるにつれ三尖弁閉鎖不全や冠動脈一右室瘻の出現が問題となる.感染症は,術後1カ月以内は細菌感染,その後は単純ヘルペスやサイトメガロウイルス等の日和見感染が増加する.移植後慢性期の予後を規定する最大の問題は移植後数カ月から数年で進展する移植心冠動脈病変である.これは中小冠動脈を中心としたび漫性狭窄であり,通常の冠動脈造影では病変をとらえにくく,血管内超音波法(IVUS)で肥厚した血管内膜が観察される.このように移植後は,急性期には拒絶反応と感染症の予防と治療に主眼がおかれるが,それは遠隔期になるにつれ移植心冠動脈病変の進展予防と腫瘍発生予防に移行する.
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