【目的】ヒ素化合物の硫黄含有メチル化代謝物であるジメチルモノチオアルシン酸(DMMTA
V)は毒性が強く、かつ、その毒性発現にはGSHが関与することが報告されている。また、DMMTA
V曝露によるアポトーシスの誘発も報告されており、この機序には、GSHとの反応により生成し、毒性の本体とされているジメチル亜ヒ酸(DMA
III)が寄与している可能性もあることから、今回、DMMTA
Vによるアポトーシス誘発機構について検討した。【方法】ヒト肝腫瘍細胞(HepaRG細胞)に対しDMMTA
VおよびDMA
III-GSH複合体(DMA
III-SG、別名:darinaparsin)を曝露し、WST-8法および細胞内ATP量の測定により細胞生存性を評価した。次に同細胞をIC
70濃度(DMMTA
V 20μMおよびDMA
III-SG 5μM)で処理しcaspase-3/7の活性を測定するとともに、12-48時間処理後に細胞からDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動によりアポトーシス誘発を検出した。さらに1mM L-buthionine sulfoximine(BSO)を6時間処理した同細胞にDMMTA
Vを24時間曝露し、caspase-3/7活性に対する細胞内GSHの影響について調べた。また、DMMTA
VおよびDMA
III-SGをIC
70濃度にて24時間曝露後、caspase-8および-9活性を測定した。【結果・考察】DMMTA
VおよびDMA
IIIはcaspase-3/7の活性を上昇させ、かつDNAの断片化を引き起こしたことから、いずれもアポトーシスを誘発することが示された。また、BSO処理細胞を用いた検討より、DMMTA
V曝露によるcaspase-3/7の活性化には細胞内GSHが関与していることが示唆された。そこでcaspaseの活性化についてさらに詳細に調べたところ、DMA
IIIはcaspase-9の活性を上昇させたが、DMMTA
Vはcaspase-9に加えてcaspase-8の活性も上昇させた。以上から、DMMTA
Vによるアポトーシスの誘発には、毒性の本体と推定されてきたDMA
IIIとともにDMA
III生成の前段階で生ずる中間代謝物も寄与している可能性が推察された。
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