症例: 症例は78歳, 男性.主訴は胸部異常陰影.昭和61年3, 月, 右胸水貯留にて第1回入院となる.腹部CT, 腹部エコーなどにて左腎に腫瘤を指摘され, 悪性腫瘍を疑われたが, 本人および家族の希望にて退院となる.昭和61年6月, 多発性の胸部異常陰影と胸水貯留にて第2回目の入院となる.腎腫瘍の肺転移が強く疑われたが, 第73病日目に肺炎にて死亡した.病理解剖所見では, 左腎下極に灰黄白色の境界明瞭な5×4×4cmの腫瘤を認めた.腎腫瘍組織は, クロマチンに富んだ棍棒状核を持ち, 好酸性で豊富な細胞質を有する紡錘形の腫瘍細胞が束状あるいは不規則に配列しており, 鍍銀染色で箱入り像を呈し, 電顕にて細胞質内にdense bodyを伴うmyofilamentを認めた.以上の所見より平滑筋肉腫と診断された.また左肺, 胸膜, 右腎, 第3, 第9胸椎, 心内膜などに広範な転移を認めた.さらに, 胃前庭部前壁に早期癌 (高分化腺癌, IIa) が存在, 重複癌の像を示していた.臨床症状に乏しい腎の悪性腫瘍として平滑筋肉腫がある.文献上, 腎平滑筋肉腫は腎悪性腫瘍の1~3.3%と比較的まれな疾患である.さらに本症例は胃癌との重複癌であり, 重複癌としてのこれまでの報告は小田島らの陰茎癌との重複報告がみられるのみであった.
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