【はじめに】
足関節への固定手段はテーピングや各種装具など多種多様に存在する。その中で、固定素材によっては関節に対する固定力・可動性などに違いがみられる。また、これらの特徴を考慮した上で運動療法へ導入し、場面・目的に応じて使用しなければならないと考える。
今回、重心動揺計側装置を用いて、2種類の足関節への固定手段が重心動揺に及ぼす影響を比較検討したので考察を加えて報告する。
【対象と方法】
対象は、健常成人31名(男性17名・女性14名)、平均年齢25.7±3.4歳、右脚支持22名・左脚支持9名であった。
1.重心動揺計側装置ペル38(MIDI CAPTEURS社製)を用いて、足関節の条件を裸足・エバーステップサポーター(以下、エバーステップ、日本シグマックス社製)・バンデージ(アルケア社製エラスコット)とし、片脚立位にて10秒間保持を2回計測した。尚、バンデージは内・外側ヒールロックとフィギュアエイトを2回連続で巻く方法とした。
2.重心動揺のパラメータはa)総軌跡長b)外周面積c)矩形面積d)X軸平均速度e)Y軸平均速度f)X軸動揺中心変位g)Y軸動揺中心変位の7項目とし、裸足を基準にエバーステップ・バンデージをt検定にて比較検討した。
【結果】
エバーステップはa)~g)全ての項目において有意に高値を認め(P<0.05)、重心動揺は裸足より増加した。また、バンデージはa)~c)、e)、g)について有意差を認めなかった。しかし、d)、f)については、有意に低値を認め(P<0.05)、X軸方向への重心動揺が減少した。
【考察】
今回の結果より、エバーステップは、関節の可動性よりも固定性に優れている為、前後左右へのバランス能力に劣ると考えられる。よって、足関節捻挫でギプス等の固定除去後において機能的にバランス能力を欠いた状態であっても、固定力を優先しなければならない時期に使用することが望ましい。つまり、可動域制限・疼痛が残存する場合は、関節の動揺性を制御して保護・固定を重視する為、積極的な運動療法、特にバランス訓練を実施する場合には適さないと考える。
バンデージにおいてY軸方向へは裸足と同様のバランス能力を発揮し、X軸方向へのバランス能力は向上した。よって、バンデージは裸足に近い状態で関節が機能し、適度な固定力と可動性の相反する効果を兼ね備える為、運動学習において歩行などの簡易な運動からより実践的で複雑な運動へステップアップする時期の使用が望ましいと考える。つまり、バランス能力が求められ、関節の可動性を重視する回復期過程の使用が適切だと考える。
今回の研究で健常人におけるバランス能力への補助的な指標を見出すことができた。また、目的に応じた固定手段の選択の必要性を感じた。中でもバンデージのX軸方向への重心動揺の減少は、積極的なトレーニングを行う際の再発予防の可能性を示唆できた。今後、動的なバランスとの関連性と足関節疾患への適応を検討していきたい。
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