元九条の傾城大淀は将軍義輝の愛妾であり、謀反に際し殺害される。大淀造形に対する近松の視点は、『仮名列女伝』「殷紂
妲己
」における比干の諫言、即ち典法に基づかない女の言葉を政道に用いることへの批判にある。三好氏の事跡を記す『三好別記』(寛文十年以前成立)は「天下の政道は小侍従殿といふ女性のはからひ成ゆへに諸人うとみはて奉り自滅し給ふ」と、政道を操る「小侍従」という女性を記す。「小侍従」は義輝の愛妾で義輝の死と共に殺害されており、近松の視点とも一致する。「小侍従」は大淀の原型と想定される。
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