本実験は, 人工授精に用いる凍結精液の作成季節および雄羊の個体が, 非繁殖季節に発情誘起された雌羊の受胎率に及ぼす影響について検討した。
供試羊は, めん羊の非繁殖季節である1993年7月に北海道士別市の大和牧場で飼養管理されているサフォーク種成熟雌羊119頭を用いた。
雌羊は, 発情同期化の方法により, 天然黄体ホルモン含有シリコン製膣内挿入具 : CIDRを膣内に9日間挿入し, CIDR除去1日前に妊馬血清性性腺刺激ホルモン : PMSG 600IUを臀部に筋肉内注射して, 発情および排卵を誘起した。さらに, CIDR除去後42~50時間目に腹腔内視鏡を用いて人工授精を行った。なお授精精液量は, 両子宮角にそれぞれ0.1m
lとした。
人工授精に用いた精液は, 1992年9月に輸入され, 士別市めん羊牧場で飼養されているサフォーク種成熟雄羊2頭より, 繁殖季節 (1992年11月) と, 翌年の非繁殖季節 (1993年7月) に人工膣により採取した。採取した精液は, 5倍希釈し, 冷却後, ドライアイス上で錠剤化凍結し, 液体窒素内 (-196℃) で浸積保存した。さらに, 精液量, 精子活力, 精子濃度, 精子生存率, 精子奇形率について精液性状検査を行った。精液性状検査の結果, 精液量 (P<0.01) ・精子活力において非繁殖季節における低下が認められた (P<0.05) 。しかし, 精子奇形率では, 繁殖季節 (11月) が, 非繁殖季節 (7月) より有意に高い値を示した (P<0.05) 。また, 精子濃度, 精子奇形率において, 2頭の雄羊個体間に有意差が認められ, ともに雄羊Aが雄羊Bより高かった (P<0.01) 。
分娩率は, 繁殖季節 (11月) の精液で63.6%, 非繁殖季節 (7月) の精液で66.1%であらた。凍結精液の作成季節の違いにおいて有意差は認められなかった。さらに, 雄羊個体別では, 雄羊Aの精液で58.9%, 雄羊Bの精液で70.9%と, 雄羊Bの精液で高い傾向にあったが, 有意差は認められなかった。
産子率では, 繁殖季節 (11月) の1.57, 非繁殖季節 (7月) の1.59, 雄羊Aの1.67, 雄羊Bの1.58と, 精液性状の差異に関係なく有意差は認められなかった。
本実験の結果より, 凍結精液は, 作成季節に関係なく周年繁殖に用いることが可能であり, そのとき凍結精液による人工授精で60%以上の分娩率が期待できるものと思われる。
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