本稿では,1930年代の月次データを用いて,信用乗数と貨幣需要関数の安定性について分析をおこなった。まず,単位根検定によってベースマネー(BM)とマネーサプライ(M1)がともに非定常過程であることを確認した上で共和分検定をおこなった結果,2変数間に共和分か存在することが明らかになった。また,ECMによって2変数間の均衡状態からの短期的な乖離である誤差修正項の係数が有意に負であることが確認され,1930年代の信用乗数が安定的であったことが実証された。続いて,マネーサプライ,鉱工業生産指数,株価指数,コールレートもそれぞれ非定常過程であったため,同様に共和分検定によって共和分があるか否かを4つのモデルによって分析した結果,全てのモデルにおいて貨幣需要と
実体経済
の間に長期均衡関係が存在することが明らかにされた。さらに,ECMによる検証においても,ともに誤差修正項の係数が有意に負であることが確認され,貨幣需要と
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の均衡状態からの短期的な乖離が均衡へと調整されることが観察された。これらの検定結果から,1930年代の日本のマネーと
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の長期均衡関係が安定的だったことが実証された。
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